159.業務プロセスの見直しと効率化


2025.09.10 |投稿者:神内秀之介

介護事業の現場は、利用者一人ひとりの細やかなケアが求められるだけでなく、記録業務や調整作業など、膨大な事務仕事に追われる構造を持っています。こうした現場の忙しさが、必要以上にスタッフを疲弊させ、利用者への心の余裕を奪うとしたら、それは組織としての軌道修正のサインです。
効率化とは「スピードを上げること」ではありません。それは、時間と資源を本当に価値のある部分へ収束させること。業務プロセスを見直し、無駄を削ぎ、仕組みによって現場を支える――そこに介護事業の新たな未来があります。本質を見極め、効率化を戦略的に進めるためのアプローチを考えてみましょう。

  1. 業務の「見える化」がスタート地点
    効率化の第一歩は、現場の実態を正確に把握し、全員が共有できる状態を作ることです。問題点を明らかにするためには「業務の可視化」が重要です。
    • 全業務をリスト化する
    日々行われている業務内容を、個人・チーム・部署ごとに具体的に洗い出します。どのタスクが誰によって、どのくらいの時間をかけて実行されているのかを明らかにしましょう。
    • 業務の分類と優先順位設定
    タスクを「利用者対応」「安全管理」「記録作業」「付随業務」などに分類し、それぞれの重要度と緊急度を評価。優先順位をつけ、重要なタスクを上位に据えたレイアウトを組み直します。
    • データで示す負荷の可視化
    特に事務作業や記録入力など、目立ちにくい業務にかける時間をデータ化し、業務負荷を数値として共有します。「感覚」ではなく「事実」を元に改革の方向性を議論する姿勢が重要です。
  2. 「やめる勇気」を持つ
    すべての業務を効率化するのは不可能です。だからこそ、「やめるべきタスク」を見極め、排除することが抜本的な改革への近道になります。
    • 不要な業務を棚卸し
    「なぜこの作業をしているのか?」とゼロベースで問い直します。形骸化した会議、意味の薄い帳票記入、重複する報告作業など、付加価値の低い業務を廃止対象としてリストアップします。
    • 小さな「やめる」を試みる
    一度に全てを排除するのではなく、1つずつ「やめる」を試してみる。たとえば、週次の報告が必要かを再評価し、月次に変更するなど、徐々にシンプル化していくことで、現場の負担を減らします。
    • 新たにやめるルールを制度化
    半期ごとに「削減リスト」を更新していく仕組みを作ります。新規業務を導入する際にも、同時に何を削るかを明示するルールを設定することで、タスクの増加を抑えます。
  3. デジタル化を現場に馴染ませる
    介護の領域は「人との対話」が中心であるため、アナログ的な要素が多いのが特徴です。一方で、デジタルツールを適切に導入・活用すれば、記録や連絡といった付属的な業務負担を大幅に軽減できます。
    • 小規模なデジタルツールから導入
    いきなり全体を一変させるのではなく、既読管理などのシンプルなタスク管理ツール、音声入力による記録作業など、現場スタッフがすぐに使える機能から始めます。
    • 現場ニーズを拾い上げたテスト運用
    よくある問題として、選んだツールが使いにくい、現場の声に沿わないということがあります。現場スタッフの意見を取り入れて候補を選定し、テスト運用を経て、最適な選択を行いましょう。
    • アナログとデジタルの共存を意識
    すべてを完全デジタルにしようとするのではなく、「アナログの強み」と「デジタルの効率」を巧みに共存させる設計が重要です。たとえば、現場で利用者さんを見る際の記録はノートに手書きし、それを後ほどデジタルに転記するなど、移行期間を柔軟に設けます。
  4. 振り返りと改善のサイクルを制度化する
    業務プロセスの効率化は一度きりの完結ではなく、継続的に見直し、更新し続ける姿勢が必要です。
    • 定期的なプロセス振り返り会議
    月次や四半期ごとに業務プロセスを見直す「振り返り会議」を実施。良かった改善点、改善の余地がある部分、新たに見えた課題をシェアします。
    • KPIで業務改善を可視化
    「記録作業時間の短縮率」「エラー報告数の減少率」など、プロセス効率化を測る指標を設定し、変化をデータで見える化します。
    • 現場の声を反映する仕組み
    現場スタッフからのアイデアや問題提起を拾い上げる仕組み(匿名投稿フォーム・定期的なアンケートなど)を設け、改善のサイクルへ反映させます。運営側だけで変化を進めるのではなく、現場と対話しながら構築していくことで、納得感と実効性が高まります。
  5. 「本当に価値を生む業務」に集中する
    効率化の最終目的は、「業務を減らすこと」ではなく、「利用者やチームへ新しい価値を生む時間をつくること」です。削減できた時間をどこに再投資するか、それを経営の軸として共有することが重要です。
    • 時間をケアと育成に再配分
    削減された時間を「利用者さんとの対話」「スタッフのスキルアップ」に積極的に使い、質の向上を目指します。
    • “無駄”から新しい価値を創造する
    見直した業務プロセスを整理する中で発見された改善点や知見を、新たなサービス向上案として活用することも可能です。

まとめ
業務プロセスの見直しと効率化は、単に「楽をする」ためではありません。それは有限な時間と資源を、本当に価値を発揮する方向へ集中させ、組織全体を強くする道です。
トップマネジャーであるあなたが、削ぎ落とす勇気と、育む意志を持つことで、現場は軽やかになり、生まれた余白から組織の新たな可能性が広がります。効率化の先にあるのは、より深いケアと、自信に満ちた現場スタッフの姿です。その可能性を拓くため、まず一歩を踏み出しましょう。


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