第28章『開かれた福祉——施設の機能は、地域の暮らしを支える知恵』


2025.09.01 |投稿者:神内秀之介

「この施設って、地域の人にも何かできるんですか?」
町内会の役員が、見学の帰り際にそう尋ねた。
沙耶は一瞬考えてから答えた。
「できます。というより、“していきたい”と思っています」

法人では、施設の専門性を地域に還元する取り組みが始まっていた。
介護予防講座、認知症サポーター養成、地域住民向けの健康相談会。
でも沙耶は思った。「還元って、“教える”ことじゃなく、“分かち合う”ことじゃないか」

彼女は「福祉の知恵を地域に届けるプロジェクト」を立ち上げた。
目的は、施設が持つ機能――知識・経験・人材・空間――を、
地域の暮らしに役立つかたちで開いていくこと。

まず始めたのは、「地域の困りごとヒアリング」。
町内会、民生委員、小学校、商店街などを訪ね、
「どんな場面で“福祉の知恵”があったら助かるか」を聞いて回った。

出てきた声はこうだった:

  • 高齢者の見守り方法が分からない
  • 認知症の方との接し方に不安がある
  • 子育て世代が孤立しがち
  • 地域イベントでのバリアフリー対応が難しい

沙耶はこれらの声をもとに、施設の機能を“地域支援メニュー”として整理した。

たとえば:

  • 【人材還元】職員が地域の見守り講座を開催
  • 【知識還元】認知症対応のハンドブックを町内会に配布
  • 【空間還元】施設の共有スペースを地域の子育てサロンに開放
  • 【経験還元】ケアの現場から“暮らしのヒント”を発信するミニコラムを広報誌に連載

ある日、地域の若者が施設の空間で「おしゃべりカフェ」を開いた。
利用者と地域の人が自然に混ざり合い、
「昔の遊び」「今の悩み」「これからの町」について語り合った。

その場にいた佐藤さん(利用者)が言った。
「施設って、町の外れにあると思ってたけど、今日ここが“町の真ん中”に感じたよ」

沙耶はその言葉に、施設の機能の本質を見た。
それは、専門性ではなく、“関係性を育てる力”だった。

評価項目【26 Ⅱ-4-(3)-①――「福祉施設・事業所が有する機能を地域に還元している」。】
それは、「“提供しているか”ではなく、“地域の暮らしに根ざしているか”が問われる。」

沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、地域の人が“ここに来ると、暮らしのヒントがある”と言った。
その一言が、還元の成果だと思う」

施設の機能とは、閉じた専門性ではない。
それは、地域の暮らしを支える“知恵の泉”であり、
その泉が開かれるとき、福祉は“町の文化”になる。

そしてその文化が、誰かの安心を育てていくのだ。

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