147.介護業界における長期的な目標設定


2025.08.28 |投稿者:神内秀之介

トップマネジャーに求められる長期目標は、未来を言い当てる予言ではなく、変化に耐える「原則」と変化に適応する「設計」を両輪にした意思です。介護は人の生と暮らしに寄り添う営み。だからこそ、短期の数値目標だけでは組織の呼吸は浅くなり、長期の抽象論だけでは現場の手が止まります。核を定め、器を更新する。この二重構造が、10年先まで組織を前に進めます。

  1. 地平を三層で描く(3年・5年・10年)
    • 3年:実装の地平(地域で“違いが分かる”成果)。例:離職率△30%、医療連携即応率95%。
    • 5年:基盤の地平(差別化の源泉)。例:人材育成の内製化、データ連携基盤、地域共創の定例化。
    • 10年:存在の地平(社会における役割)。例:最期まで地域で生きられるモデルの標準化と発信。 時間軸ごとに「何が見えるか」を一文で言えるまで削ぎ、毎年ローリングで更新する。
  2. ステークホルダーの未来像を設計する
    • 利用者・家族・スタッフ・医療・地域の「未来の1日」を物語で可視化(1000字×5本)。
    • 目標は数値だけでなく、関係性の質を約束するもの。物語が曖昧なら、数値も曲がる。
  3. 指標は「結果」と「先行」を二階建てで
    • 結果指標:転倒率、再入院率、家族満足、紹介比率、離職率。
    • 先行指標:ケアプラン見直し率、1on1実施率、研修受講完了率、家族連絡の即応率、連携会議の開催率。 先行指標の改善が結果に波及する関係を明示し、月次で連動検証する。
  4. 人と仕組みの“フライホイール”を回す
    • 採用→育成→定着→挑戦→価値創出の循環を設計。各段階にKPIと役割を配置。
    • 例:新人定着プログラム完了率→プリセプター育成→小規模改善プロジェクト→ミニ手順書の資産化。 回り始めた小さな推進力が、長期の差を生む。
  5. 事業は「コア・成長・実験」のポートフォリオで
    • コア(安定運営)、成長(拡張/多角化)、実験(新規/技術導入)を明確に区分。
    • 予算も人も区分配賦(例:70/20/10)。実験は小さく早く検証し、成功は成長へ、失敗は知見としてコアへ還元。
  6. リスクは“バッファで管理”する
    • 人員・資金・評判・法制度の4領域でバッファ指標を設定(有給消化水準、手元流動性月数、苦情一次応答時間、法改正シナリオ)。
    • 目標は攻めと守りの合奏。余白がない戦略は、現場をすり減らす。
  7. 「やめることリスト」を半期で更新
    • 長期目標は足し算では濁る。やめる・減らす・委ねるを明文化し、資源を解放する。
    • 会議、帳票、慣習の棚卸しを儀式化。引き算が、核を際立たせる。
  8. 組織全体に“翻訳”する
    • 同じ目標を、職種・拠点別の一行に言い換え(夜勤版、通所版、在宅版)。
    • 「今日の行動」に落ちるチェックリスト化(申し送り、家族対応、研修の型)。理念を動詞に変える。
  9. ガバナンスは「定点観測×物語」で
    • 四半期レビューで指標と現場エピソードを対で共有。数字に温度を、物語に検証を。
    • 年1回は外部目線(医療・家族・自治体)を招き、盲点を正す。

すぐに着手できる3つの一手
• 今週:3・5・10年の一文ビジョン草案を作り、経営チームで30分の言葉磨き。
• 今月:ステークホルダー5本の「未来の1日」ナラティブを各拠点で作成し、横展開。
• 来月:KPI二階建てとポートフォリオ配分(70/20/10)を予算に組み込み、四半期レビューを定例化。

まとめ
長期目標は、遠い山影ではなく、今日の一手を選ぶための座標です。核(何のために)を揺らさず、器(どうやって)を更新し続ける。その一貫性が、現場の誇りと成果を同時に高めます。
あなたが同じ言葉で示し、資源配分で支え、儀式で守るとき、目標はスローガンを超え、組織の習慣になります。10年後の姿は、今日の小さな設計から始まります。


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