第26章『交差点に立つ人たち——ボランティアは、関係性の風を運ぶ』
2025.08.26 |投稿者:神内秀之介
「ボランティアって、何をお願いすればいいんでしょうか?」
新人職員の理佳がそう尋ねたとき、沙耶は少し考えてから答えた。
「お願いするんじゃなくて、“一緒にいる”ことから始めるのかもしれないね」
法人では、ボランティア受け入れの体制が整備されていた。
登録制度、活動記録、受け入れマニュアル、保険加入の手続き。
掲示板には「ボランティア募集」の案内も貼られていた。
でも沙耶は思った。「制度はある。でも、“姿勢”はあるだろうか」
彼女は「ボランティア受け入れの基本姿勢」を言葉にすることにした。
それは、“支援者”としてではなく、“関係性の担い手”として迎えるという考え方。
まず、法人内で「ボランティア受け入れ方針ミーティング」を開催。
職員とボランティア経験者が集まり、以下のような言葉が紡がれた:
– 「ボランティアは、施設の“外の風”を運んでくれる存在」
– 「利用者にとって、“新しい関係”を生むきっかけになる」
– 「職員にとって、“ケアを見直す視点”をくれる存在」
– 「施設にとって、“地域との交差点”になる存在」
この言葉をもとに、「ボランティア受け入れガイドブック」を再構築。
活動内容だけでなく、“関係性のつくり方”や“語り合う時間の大切さ”を盛り込んだ。
さらに、受け入れ体制も見直した。
– 初回オリエンテーションで、法人理念とケアの考え方を共有
– 活動後のふりかえりシートで、ボランティア自身の気づきを記録
– 月1回の「ボランティアカフェ」で、職員と語り合う場を設置
– 利用者との“関係性の記録”を、活動報告に加える
ある日、絵本読み聞かせのボランティアが、利用者の佐藤さんにこう言った。
「このお話、昔お孫さんに読んであげたことありますか?」
佐藤さんは笑って、「あの子、カエルの話が好きだったんですよ」と語った。
その一言が、職員のケア記録にも反映された。
沙耶は思った。
「ボランティアって、“手伝い”じゃなく、“関係性の風”なんだ。
その風が吹くと、ケアの空気が少し変わる」
評価項目【24 Ⅱ-4-(1)-②――「ボランティア等の受入れに対する基本姿勢を明確にし体制を確立している」。】
それは、「“制度的な整備”だけでなく、“関係性の哲学”が言語化されているかどうか」が問われる。
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、ボランティアさんが“ここに来ると、自分も育てられる気がします”と言った。
その一言が、受け入れ体制の成果だと思う」
ボランティアは、施設の外からやってくる“風”。
その風が、利用者の記憶を揺らし、職員の視点を広げ、
施設という空間に、“地域との交差点”を生み出していく。
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