第18章『その人らしさに火を灯す・・・育成とは、可能性の伴走である』
2025.08.18 |投稿者:神内秀之介
「私、向いてないかもしれません…」
新人の理佳が、ケア記録の書き方に悩んでいた。
沙耶はそっと隣に座り、「向いてるかどうかより、“どこが楽しいか”を探してみよう」と声をかけた。
法人では、職員育成に関する制度が整っていた。
新人研修、中堅研修、リーダー研修、外部講座の受講支援。
育成計画表には、職員ごとの研修履歴と到達目標が記されていた。
でも沙耶は思った。「制度はある。でも、“その人らしさ”は育っているだろうか」
彼女は「個別育成カルテ」の導入を提案した。
従来のスキル評価に加え、以下の項目を追加した:
- この職員が“楽しい”と感じる業務は?
- この職員が“苦手だけど挑戦したい”と思っていることは?
- この職員が“誰かに褒められた”経験は?
- この職員が“自分らしさ”を感じた瞬間は?
カルテは年2回、面談を通じて更新され、
育成計画に反映された。
理佳は「利用者さんと雑談する時間が好き」と語った。
沙耶は彼女を“生活支援ユニット”に配置し、
雑談を記録に活かす研修を提案した。
数か月後、理佳は「記録が“会話の延長”になった気がします」と笑った。
また、沙耶は「育成の語り場」を設けた。
月1回、職員が“自分が育った瞬間”を語る場。
「初めて“ありがとう”って言われた日」
「失敗したけど、先輩が笑ってくれた日」
「自分の提案が採用された日」
それらの語りが、職場に“育成の温度”を広げていった。
評価項目【17 Ⅱ-2-(3)-①――「職員一人ひとりの育成に向けた取組を行っている。」】
それは、「“制度的な研修”だけでなく、“その人の可能性に寄り添う仕組み”があるかどうか」が問われる。
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、理佳が“この仕事、ちょっと好きになってきました”と言った。
その一言が、育成の成果だと思う」
育成とは、教えることではない。
その人の“らしさ”に火を灯し、
その火が消えないように、そばで伴走すること。
それが、制度の中で最も人間的な営みなのだと思う。
#福祉サービス第三者評価を広げたい