第1章『理念という、内なる天気図』


2025.08.01 |投稿者:神内秀之介

朝礼が始まる直前、私は掲示板の前に立っていた。
そこには法人理念が書かれている。見慣れた文字列・・・
しかしその日は、少し違って見えた。

「私たちは、地域に根ざした安心・安全な生活の場を提供します」
その一文の中に、昨日の雨音や、誰かの沈黙が溶け込んでいる気がした。

“理念”とは、固定された言葉ではなく、
現場の空気と混ざって生まれ直す“内なる天気図”なのかもしれない。

昇格後、私は法人理念を読み解く研修を設計した。
「理念に込められた天気を探してみましょう」
参加した職員たちは、最初ぽかんとしていたが、少しずつ言葉を綴り始めた。

「この一文って…“帰ってきてよかった”って言われた日のことを思い出す」
「“安心”って、利用者さんの手を握ったときの温度だったな」
誰かが語った“体験”が、理念の地図に風を起こす。

私は、職員の声を使って“理念再編集プロジェクト”を立ち上げた。
「毎月1つ、理念の言葉を、現場のまなざしで書き換えてみましょう」

第一回は、「地域に根ざす」だった。
職員の語りから生まれたのは、こんな一文。

「地域とは、“あのパン屋さんが今日も営業している”と安心できる暮らしのこと」

評価項目【1 Ⅰ-1-(1)-① 理念、基本方針が明文化され周知が図られている。】
私は、“意識に浸透する”とは、「理念が職員の語りに溶け込むこと」だと考えている。

ただ掲示するだけでは、理念は“制度の装飾”に過ぎない。
誰かの体験と結びついて初めて、“方角を示す天気図”になる。

その後、私たちは法人理念の理解を毎年更新することにした。
変更案は、全職員からの投稿形式。
「この一年で、あなたのケアと理念が繋がった瞬間はどこですか?」

集まった文章は、法人パンフレットの裏表紙に印刷された。
利用者の家族からも感想が届いた。
「この文章を読んで、ここに預けてよかったと改めて思いました」

制度とは、現場に風を起こすための“気象情報”であり、
理念は、その風向きを教えてくれる“天気図”なのだ。

誰かが語り、誰かが感じる限り・・・
理念は、生き続ける物語になる。

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