69.―人と人が支え合う哲学的喜び
2025.06.11 |投稿者:神内秀之介
介護の仕事。その一歩を踏み出した時、多くの人が感じるのは緊張や不安かもしれません。利用者さんに寄り添いながら「自分に本当にできるのだろうか?」と考えたり、慣れない業務に戸惑ったりすることもあるでしょう。しかし、そんな日々の中でふとした瞬間に感じる「やりがい」こそが、この仕事の深い魅力です。それは利用者さんとのかけがえのないつながりを実感する瞬間に訪れます。
ここでは、介護の仕事で初めて感じるやりがいについて、哲学的な視点を交えて考えてみましょう。
- 「ありがとう」の言葉に込められた重み
哲学者マルティン・ブーバーは、「人と人との関係性こそが人間を豊かにする」と述べました。介護の現場で「ありがとう」という利用者さんの言葉を初めて受け取った時、その深い意味に驚くかもしれません。その言葉は、単なる感謝以上のものを含んでいます。
たとえば、食事の介助を終えた後の「ありがとう」、体調を気遣った一言に返された「ありがとう」――その瞬間、利用者さんが自分を信頼し、心を開いてくれたことを実感します。その言葉が、介護の仕事が「人と人を支える関係性」の中で成り立っていることを教えてくれるのです。
- 小さな成長が積み重なる喜び
哲学者アリストテレスは、「人は目的に向かって行動する存在である」と語りました。介護の仕事では、利用者さんが日々の支援を通じて少しずつできることを増やしていく場面に立ち会います。その成長は小さな一歩かもしれませんが、確実に積み重なります。
たとえば、「昨日まではできなかった動作が今日はできた」「笑顔が増えた」といった利用者さんの変化を目にする時、そこに自分の支援が役立っていることを実感します。その一歩一歩を共有する喜びが、介護職としてのやりがいを生む大切な瞬間です。
- 自分が誰かを支えているという感覚
哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「私たちは他者との関係の中で存在する」と言いました。介護の仕事では、利用者さんの生活を直接的に支えるという実感があります。「自分がここにいることで、誰かの生活が少しでも良くなっている」――そんな感覚を初めて味わう時、この仕事の大きな意義に気づくでしょう。
たとえば、夜勤中に利用者さんの体調を見守り、安心して眠れる環境を作った時、ただ日常の動作を支援した時、そこには「人を支えることで自分もまた生かされている」という深い充実感があります。
- 笑顔がもたらす幸福感
哲学者フリードリヒ・ニーチェは、「人生の意味は、誰かに喜びを与えることで見つかる」と考えました。介護の現場では、利用者さんの笑顔に触れる瞬間が何よりの報酬です。それは、お世話をした後に返される微笑みや、安心した表情の中に現れます。
初めて利用者さんの心からの笑顔を見た時、その一瞬が自分の心を満たし、「やっていて良かった」と思えるでしょう。笑顔は、言葉以上に多くのことを伝え、介護職としてのモチベーションを高めてくれるのです。
- 人生に触れる尊さ
哲学者マルティン・ハイデッガーは、「人間は『存在』そのものを考える存在である」と述べました。介護の仕事では、利用者さんそれぞれの人生に触れる機会があります。その人のこれまでの歩みや大切にしてきた価値観を聞く中で、自分自身の生き方を見つめ直すこともあるでしょう。
「この人の人生の一部を支えている」という感覚は、ただの仕事を超えた尊さを感じさせ、「自分が存在する意味」を深く考えるきっかけになります。
まとめ
介護の仕事で初めて感じるやりがいは、「人と人とのつながり」や「誰かの役に立つ」という実感の中にあります。それは、利用者さんの笑顔や感謝、ささやかな成長を共有する瞬間に訪れます。そして、このやりがいは、決して派手なものではなく、日々の中に静かに輝くものです。
