65.調和を生む哲学的アプローチ
2025.06.07 |投稿者:神内秀之介
介護の現場では、介護士だけでなく看護師やリハビリスタッフ、ケアマネジャー、医師など、多くの職種が関わりながら利用者さんの生活を支えています。これら「多職種連携」は介護の質を高めるために欠かせないものですが、異なる視点や役割を持つ人々とのやり取りが難しいと感じることもあるでしょう。そんな時に役立つのが、哲学の視点です。他職種とスムーズに連携するための方法を、哲学的に読み解いてみましょう。
- 「全体性」を意識する――共通のゴールを描く
哲学者ゲオルク・ヘーゲルは、「全体の調和の中で個が輝く」と述べました。他職種の連携においても、この「全体性」を意識することが重要です。私たちの共通の目的は、利用者さんが安心して暮らせる生活を支えること。そのゴールを全員で共有することで、個々の違いや視点の対立を、「より良いケアを生むための多様性」として捉えることができます。
たとえば、看護師は医療的な安全性を、リハビリスタッフは身体機能の向上を、ケアマネジャーは生活全体のプランを、それぞれ専門性を持って考えています。この多様な視点を「利用者さんの最善のため」という共通の目的に結びつけることで、連携の基盤が整います。
- 「他者を知る」姿勢を持つ
哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「他者を知ることが自己を深める」と語りました。他職種との連携で重要なのは、自分の立場や考えだけでなく、相手の専門性や視点を理解しようとする姿勢です。例えば、「看護師さんが何を優先しているのか」「リハビリスタッフがどこに課題を感じているのか」といった相手の立場を知ることが、連携を円滑に進める第一歩になります。
相手を知ることで、互いの役割や価値を尊重できるようになり、「自分だけが正しい」という狭い視野から解放されます。その結果、多職種のネットワークが強固になり、チーム全体が柔軟に動き出します。
- 「対話」の力を活かす
哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「対話こそが理解を深める」と説きました。他職種との連携では、文字や記録だけでなく、直接の対話が非常に重要です。たとえば、カンファレンスやミーティングの場では、相手の意見に耳を傾け、自分の考えもわかりやすく伝えましょう。この時、ただ「話す」だけでなく、「聴く」姿勢が鍵となります。
「相手の考えを知るために耳を傾ける」「自分の考えを押し付けるのではなく、共有する」――このような対話が、相互理解を深め、連携をスムーズにする力になります。
- 「違い」を調和に変える
哲学者ニーチェは、「対立するものが調和を生む」と述べました。他職種との関係でも、意見の食い違いや視点の違いは避けられません。しかし、その違いを否定するのではなく、「新しい気づきを生むきっかけ」として活用しましょう。
たとえば、リハビリスタッフの提案が介護現場の実情に合わないと感じた時、それをただ否定するのではなく、「現場での負担を減らすために、どんな工夫ができるだろう?」と対話を通じて新たな解決策を模索することができます。違いを調和に変えるには、柔軟な思考と前向きな姿勢が大切です。
- 「感謝の言葉」を忘れない
哲学者マルティン・ブーバーは、「人間関係の基盤は『ありがとう』にある」と語りました。他職種との連携でも、感謝の気持ちを伝えることが信頼関係を築く基本です。忙しい現場だからこそ、ちょっとした「助かりました」「いつもありがとうございます」といった言葉が、相手との距離を縮める大きな力を持ちます。
感謝の言葉は、チームの中に温かい雰囲気を生み出し、コミュニケーションをスムーズにする潤滑油のような役割を果たします。
まとめ
他職種との連携は、「利用者さんのために」という共通のゴールを持ちながら、相手を知り、対話し、違いを活かし、感謝の気持ちを忘れないことが鍵となります。哲学の視点を取り入れることで、連携は単なる業務の一部ではなく、「共により良いケアを作り上げる創造的なプロセス」へと変わるでしょう。
