❖AI・ICTに投資しない?できないわけ。


2020.12.07 |投稿者:神内秀之介

 前回のブログでは、A I・I C T導入の阻害要因や普及しない理由の5つの中から、「共通言語がない」ことについて説明してみました。今回は、「事業規模が小さい」についてさらに深掘りし説明していきたいと思います。

 AI・ICTソリューションを導入時に考えておくべきことは、当然ながら誰がいくら払えるかという費用面です。高齢者介護分野のサービスの財源の中心は、介護報酬です。介護保険事業の事業規模は平成30年度で年間10兆円を超える規模まで拡大していますが、しかしそれぞれ運営している側の事業規模は小ぶりです。

 そもそも収入面では、訪問系サービスだと1時間3,940円程度、通所系サービスで要介護3の方で1回8,980円程度、短期滞在系のサービスで要介護3の方で1日あたり7,220円程度、居住系サービス(特定施設・G H・有料など)の要介護3の方で1日あたり6,680円程度、入居系サービスの要介護3の方で1日あたり7,769円程度となっています。かかる人件費などの費用を鑑みると決して高額な収入構造にはなっていません。

 また介護保険では、区分支給限度額の仕組みがあるため、どんなに経済的に裕福で余裕がある方でも、その対価に見合ったサービスが購入できる構造になっていません。最近は混合介護や制度外や自費サービスなどの検討も進んでいますが、まだまだ発展途上の状況です。今後5年から10年の間には、急速に進んでいく可能性を秘めていますが、今まさに2040年に向け、介護保険制度が20年という折り返しに来て、さまざまな意味で試されています。

 今後の地域包括ケアシステムや地域共生社会の構築のためには、在宅系のサービスの拡充、つまり地域生活での限界値の拡充とそこでのA I・I C Tの導入が鍵となってきますが、訪問介護では、1カ月あたりの売り上げが、300万円程度で、利益は18万円弱にしか過ぎません。また、サービスの供給量が多い通所介護でも、1カ月あたりの売り上げが400万円弱で、利益においては55万円程度にしか過ぎません。一般企業のI C T投資額の平均規模が売り上げの3%から5%前後ですが、労働集約型の介護保険事業であればその投資適正比率はもっと低くなると想定できます。

 介護分野1事業所あたりのI C T投資費用は、最大でも仮に適正投資3%だとしても9万円から12万円程度に抑えなければなりません。小規模の10名程度の事業所でも職員一人当たりで換算すると月1万円以下の投資となってしまいます。A I・I C Tの活用は、一部の管理者や事務職員だけでは意味がありません。事業所にいるすべての職員が活用できなければ意味がありません。機器代やライセンス料、通信費などのイニシャルコスト・維持費を如何に捻出するかが課題となります。

 今後、資本力が低い事業所では補助金や助成金の上手な活用、企業とのタイアップ、共同開発などの検討が必要となります。いろんな情報にアンテナを張り巡らせたいものです。


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