「慣れ」と「その瞬間の価値」


2025.04.26 |投稿者:神内秀之介

介護の現場では、日々繰り返される業務やケアが「慣れ」によって効率化される一方で、その「慣れ」が本来の大切な価値を薄めてしまうこともあります。哲学者ヴァルター・ベンヤミンが述べた「複製技術」と「アウラ(オーラ)」の概念を介護に置き換えて考えると、見えてくるものがあるのではないでしょうか。

「繰り返し」によって薄れる価値
ベンヤミンは、複製技術が進むことで、本来1度きりの特別な体験が、何度も再現されるようになると指摘しました。それによって、体験の「オリジナル性」や「その瞬間にしか感じられない価値」が失われてしまう危険性を説いています。介護の現場でも、ルーチン化されたケアやマニュアルに従った業務が増えると、つい目の前の利用者さんとの「今この瞬間」の特別さを見落としてしまうことがあります。毎日の繰り返しの中でも、「その時にしか得られない体験」に目を向ける意識が重要です。

ケアにおける「アウラ(オーラ)」を大切にする
ベンヤミンが言う「アウラ(オーラ)」とは、その場限りの独特な雰囲気や価値のことです。例えば、利用者さんとの会話や笑顔、特別な瞬間――これらは、どれだけ業務がルーチン化されても、その時その場でしか味わえない特別な体験です。「慣れ」の中で見落としがちなこうした瞬間こそ、介護者としてのやりがいや温かさを感じられる源石ではないでしょうか。効率だけでなく、その「瞬間の価値」にも目を向けることが、利用者さんにも自分にも豊かな時間をもたらします。

複製技術が共生型社会を可能にする
一方で、ベンヤミンは複製技術が「一般市民が参加しやすくなる」メリットを挙げています。この視点は、介護の「共生型社会」にも通じます。ICTや先進的な技術、共有できる介護ノウハウの発展は、より多くの人が介護に携わりやすくし、地域や社会全体が介護を支える仕組みを作る可能性を広げます。技術や標準化された方法論は、介護への垣根を下げ、地域社会全体が介護を「共に生きる」大切な活動として理解しやすくしてくれます。

まとめ
ベンヤミンの哲学が教えてくれるのは、「慣れ」によって失われてしまいがちな「その瞬間にしか得られない特別な価値」への意識を忘れてはならないということ。そして、技術やノウハウの進化が、共生型社会を実現する可能性を秘めているということです。目の前の利用者さんとの一瞬一瞬を大切にしながらも、技術や制度を活用して、共生型社会に向けて協力する両輪が大切です。


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