第42章『変わることを恐れない仕組み——標準化の見直しは、現場の声に応えること』


2025.09.16 |投稿者:神内秀之介

「この方法、前はうまくいってたけど…最近ちょっと違和感があるんです」
職員の理佳が、ケア記録のふりかえりの中でそう語った。
利用者の佐藤さんが、以前は安心していた対応に、最近は落ち着かない様子を見せていた。
沙耶はその言葉に、標準化の“硬さ”を感じた。
“守るべき方法”が、“変化に応じる力”を失ってはいけない。

法人では、標準的な実施方法の文書化と定期的な見直し体制が整備されていた。
年1回のマニュアル改訂、加算制度の変更に応じた更新、職員研修との連動。
しかし沙耶は思った。「見直しが“制度の変化”だけに反応していたら、
“現場の違和感”は置き去りになる」

彼女は「ケアの見直し仕組みづくりプロジェクト」を立ち上げた。
目的は、標準的な実施方法を“現場の声”と“利用者の変化”に応じて柔軟に育てること。

まず始めたのは、「違和感メモ」の導入。
職員が日々のケアの中で「この方法、ちょっと合わなくなってきたかも」と感じた場面を記録する仕組み。
それは、エラーではなく、“変化の兆し”を捉える記録だった。

ある職員はこう書いた。
「〇〇さん、以前は“声かけ→立位→歩行”の順で安定していたが、
最近は“立位”の前に不安そうな表情を見せる。声かけの内容を見直す必要があるかも」

このメモは、月1回の「ケア見直し会議」で共有され、

  • どんな変化が起きているか
  • 現行の方法がどこでズレているか
  • 代替案はあるか
  • 文書化する必要があるか
    を検討する場となった。

さらに、「利用者の声からの見直し」も導入。
ケアのふりかえり面談で、「この対応、最近どう感じていますか?」と尋ね、
利用者の実感を“標準化の見直し材料”として扱うようにした。

佐藤さんはこう語った。
「前は“お風呂の時間ですよ”って言われると安心だったけど、
最近は“今日はどうしますか?”って聞かれる方が落ち着く。
自分で決めたい気持ちが強くなってきたのかもしれません」

沙耶はその言葉に、標準化の本質を見た。
それは、“固定された方法”ではなく、“変化に応じる柔軟な土台”だった。

また、見直し後の方法は「ケアの理由付きマニュアル」として再文書化。

  • 変更の背景
  • 利用者の変化
  • 職員の気づき
  • 新しい方法の目的
    を明記し、単なる手順変更ではなく、“ケアの哲学の更新”として扱った。

評価項目【41 Ⅲ-2-(1)-②――「標準的な実施方法について見直しをする仕組みが確立している」。】
それは、「“更新されているか”ではなく、“現場の声に応じて育てられているか”が問われる。」

沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、理佳が“変えるって、守ることなんですね”と言った。
その一言が、標準化見直しの成果だと思う」

標準化とは、ケアの質を守るための言語。
そしてその言語は、変化に応じて書き換えられることで、
“その人らしさ”に寄り添い続ける力を持ち続けるのだ。

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