163.新規事業の立ち上げ方
2025.09.14 |投稿者:神内秀之介
介護事業を取り巻く環境は、日進月歩で変化しています。高齢者人口の増加、家族介護の限界、新たなテクノロジーの登場――こうした動きに応えていくためには、組織として現状維持だけではなく、新しい価値を探求する必要があります。しかし、既存事業が組織全体の安定を支えている状況で、新規事業を進めるのは簡単ではありません。「挑戦が本業への負担となり、組織全体のバランスを崩すのではないか」という不安が、誰しも頭をよぎるでしょう。
そこで求められるのが、既存事業の「安定の根」をしっかり守りながら、新規事業という「挑戦の枝葉」を伸ばしていくアプローチです。ここでは、組織の両立を成功させるための具体的な戦略を3つの視点から考えていきます。
- 既存事業の「守るべき核」を再定義する
新規事業に着手する際、まず取り組むべきことは、既存事業の「核」を見極めることです。どの部分を徹底的に守るべき安定基盤とし、どの部分で新たな挑戦が可能かを明確化する必要があります。
• 既存事業の価値と強みを見直す
例えば、利用者ケアの質、地域内での信頼、スタッフの経験といった「組織の核」となる要素をリストアップし、それが揺るがないように保つ計画を立てます。核の強みを再確認し、それを壊さない範囲での挑戦を設計することが、大前提です。
• 効率化で挑戦の余力を見つける
既存事業のプロセスや業務内容を見直し、無駄な業務を排除したり、デジタル化や外部委託で業務の効率化を図ることで、リソースに余力を生み出します。生まれた時間やコストを新規事業へ投資するスペースとして活用します。 - 新規事業は「小さく始め、大きく育てる」
新規事業を立ち上げる際には、いきなり大きなリソースを割き、大規模に展開することは避けるべきです。むしろ、試行錯誤の期間を設けながら、少しずつ事業を成長させていく「スモールスタート」が成功への鍵となります。
• ターゲットを絞る
例:新規事業の対象を特定の利用者層に限定した試験運用を行う(認知症特化型ケア、短期間のリハビリプラン、若年性高齢者向けフィットネス事業など)。規模を限定して実験できれば、リスクを抑えつつ、ニーズと提供価値の検証が可能です。
• 現場スタッフの意見を反映する
新規事業のプランニング段階から現場の声を取り入れることで、失敗する可能性を減らすだけでなく、スタッフの当事者意識を高めることができます。現場のリアルな経験は、事業成功の重要なコンパスです。
• KPIを精緻に設計する
新規事業の成果を測定するための具体的な指標を設定します(例:利用者数、リピート率、収益性、利用者満足度)。これにより、どのタイミングで事業を拡大するべきか、また停止するべきかの判断基準が明確化されます。 - バランスを取るための「二軸体制」を敷く
既存事業と新規事業を両立させるには、それぞれの性質に合わせた「別軸の運営」を明確化する組織体制を設計することが重要です。
• 専任チームを設置する
既存事業に影響を与えないため、新規事業は専任の少人数チームで推進します。例えば、数名のリーダー格を「新規プロジェクト担当者」として選出し、彼らに裁量を与える一方で、本業を支えるスタッフの負荷が増えないように配慮します。
• 経営資源の分配を管理する
予算、人員、時間を既存事業と新規事業でどのように分けるのかを、トップダウンで計画的に決定します。例えば、全リソースの70%を既存事業に、30%を新規事業に振り分けるといった明確なガイドラインを設定しておきます。
• 経営層の定期レビューをルーチン化
新規事業の進捗やリスクについて定期的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行います。「新規事業を大胆に進めながら、小さな問題をこまめに解消する」繊細なバランス取りが重要です。
まとめ
既存事業を守りつつ新規事業に挑むという行動は、まさに「安定」と「挑戦」の二律背反への取り組みです。それは、これまで培ったものを土台に、その上に新しい価値を積み上げる建築のようなもの。しっかりとした基礎(既存事業)を維持しながら、上層階として新たな機会を広げる姿勢が、事業の未来を切り開きます。
あなたが描く新規事業の挑戦は、たとえそのスタートが慎ましいものであっても、「その一歩」が組織の成長を加速させ、地域社会に新たな価値を生むのです。「守る根」と「挑む枝葉」のバランスを意識した経営こそ、介護業界における持続的な成功の鍵と言えるでしょう。