第40章『守るというまなざし——感染症対策は、暮らしの安心を編むこと』


2025.09.14 |投稿者:神内秀之介

「また流行ってきてるみたいですね」
テレビのニュースを見ながら、利用者の佐藤さんがぽつりとつぶやいた。
インフルエンザの流行期が近づいていた。
その言葉に、沙耶は静かにうなずいた。
“予防”とは、“不安に寄り添うこと”でもある。

法人では、感染症対策の体制が整備されていた。
感染症マニュアル、発生時の対応フロー、職員研修、衛生管理のルール。
定期的なシミュレーション訓練も行われていた。
しかし沙耶は思った。「体制があるだけでは、安心は育たない。
“暮らしの中で守られている”という実感が必要なんだ」

彼女は「安心を守る感染対策プロジェクト」を立ち上げた。
目的は、制度的な対策を“暮らしの安心”として根づかせること。

まず始めたのは、「予防の見える化」。
施設内に「今月の予防ポイント」を掲示し、

  • 手洗いのタイミング
  • マスク着用の意味
  • 換気の工夫
  • 体調変化の早期発見
    などを、利用者にもわかりやすい言葉で伝えた。

さらに、「感染症予防カフェ」を月1回開催。
看護師が“感染症の仕組み”や“予防のコツ”を語り、
利用者が「不安なこと」「気になること」を自由に話せる場とした。

ある日、佐藤さんがこう語った。
「マスクって、苦しいけど…
“誰かを守るため”って聞いて、ちょっと気持ちが変わりました」

沙耶はその言葉に、予防の本質を見た。
それは、“義務”ではなく、“関係性のケア”だった。

そして、発生時の対応にも“安心の視点”を加えた。
感染者が出た場合の隔離対応では、

  • 個室でのケアに“安心の声かけ”を添える
  • 面会制限中でも“手紙”や“ビデオ通話”でつながりを保つ
  • 職員間で“感情の共有”を行い、ケアの温度を下げない工夫をする

また、職員向けに「感染対応ふりかえりシート」を導入。

  • 何がうまくいったか
  • どこに不安が残ったか
  • 利用者の表情や言葉にどんな変化があったか
  • 次回に活かす工夫は何か

この記録が、対応の質を高める土台となった。

評価項目【39 Ⅲ-1-(5)-②――「感染症の予防や発生時における利用者の安全確保のための体制を整備し、取組を行っている」。】
それは、「“体制があるか”ではなく、“安心が守られているか”が問われる。」

沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、佐藤さんが“ここは、守られてるって感じがする”と言った。
その一言が、感染対策の成果だと思う」

感染症対策とは、マニュアルの遵守ではない。
それは、“命と関係性”を守るまなざしであり、
そのまなざしが、施設という空間に“安心の文化”を育てていくのだ。

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