161.組織の収益構造を改善する方法


2025.09.12 |投稿者:神内秀之介

介護事業の経営において、収益構造の改善は避けて通れない課題です。ただし、それは単なる経費削減や価格改定を意味するものではありません。介護の現場で働くスタッフへの正当な対価は確保しつつ、質の高いサービスを提供するためには、収益をバランスよく改善する発想が求められます。
収益構造の見直しには、「どこで価値を生み、どこに資源を投下するべきか」を問い直す機会が不可欠です。そして、事業の「本質」に沿った投資と削減を同時に進める「選択と集中」を行うこと。ここでは、介護業界特有の文脈に即した収益構造改善の具体策を考えていきます。

  1. ビジネスモデルの「価値」を再定義する
    まず重要なのは、「この事業がどこで価値を生み出しているか」を再確認し、その価値を分解し直すことです。利用者、家族、スタッフ、地域社会――それぞれにどれだけの付加価値を提供しているかを理解する必要があります。
    • コアバリューを特定する
    「利用者には何をもたらすのか」「家族にはどんな安心を提供するのか」「スタッフにはどのような働く意義を与えているのか」といった、多様なステークホルダーごとの価値提供モデルを分解します。
    • 収益構造と価値構造の連動性を検証する
    現在の収益が、どのサービス部分から生み出されているのかを明確化する。例えば、住宅型サービスが占める割合が高いにもかかわらず、ケアサービスに重点を置きすぎていないかといった「ズレ」を確認します。
  2. 課金とサービス内容のバランス調整を行う
    現状の収益構造を明らかにしたら、次に「適切に価値が課金されているか」を再評価する段階へ進みます。
    • プランの見直しと収益モデルの多様化
    定額制やパッケージ化されたプランを導入し、利用者が価値の範囲を選択しやすい価格モデルを提供します。たとえば、「基本プラン+オプションサービス」のような柔軟な料金設計が可能です。
    • 付加価値型サービスを明確化
    認知症ケアの専門的なプログラムや、家族向けの介護相談プラスαのサービスを提供するなど、特化型サービスに対して明確に課金できる体系を整えます。こうすることで「高品質の選択肢」として差別化が可能になります。
  3. コスト構造の見直しと「やめること」の選定
    同じ重要性を持つのは、コスト効率を高めることで生まれる利益の確保です。ここでのポイントは「何を削減するか」ではなく、「何に集中するか」です。
    • 「やるべきこと」と「やめるべきこと」の厳選
    全業務を「緊急かつ重要」「重要だが緊急でない」「重要でないが緊急」「どちらでもない」の4つに分類します。その中で「どちらでもない」、もしくは重要でない業務については思い切った削減を検討します。
    • 固定費と変動費の最適化
    高額な外部委託費用や、人員の配分における無駄を見直します。例えば、複数施設間で共通する作業を一元化したり、非介護部分(清掃、設備点検など)を合理的に調整できる外部業者を再交渉する。
    • テクノロジー投資を戦略的に活用
    デジタルツールやAIを使った効率化を導入し、記録作業の省力化や施設全体の業務負荷軽減につなげます。初期投資が必要ですが、長期的にはコスト割れを防ぐ運用が可能となるケースが多いです。
  4. 利用者満足度とスタッフのエンゲージメントを両立する
    収益改善は「数字の話」だけではなく、利用者やスタッフの幸福を損なわない形で行う必要があります。むしろ、満足度を高めることで長期的な収益確保につながります。
    • 直接的なフィードバック収集
    利用者満足度調査や家族からの意見を定期的に集める仕組みを作り、「その声をどう収益に生かすか」を経営議論に組み込みます。また、リピート率や口コミを通じた営業戦略もここに連動させます。
    • スタッフの離職率抑制=コスト削減
    離職率上昇がコストを増やす最大の要因です。従業員満足度に寄与しやすい「勤務内研修」や「キャリア形成のサポート」などを軸に、長期的エンゲージメントを高める取り組みを強化します。
  5. 地域連携による資源の拡大
    収益構造の改善を自施設だけで完結させず、地域社会や行政、他の事業者と連携することで、持続可能な収益モデルを作る方法もあります。
    • 補助金・支援制度の活用
    行政や自治体の助成金、補助金制度を活用し、設備投資や人材育成プログラムのコストを軽減する。特に、ICT導入や災害対策においては補助金の対象となるケースが多々あります。
    • 地域資源を使った新規事業展開
    コミュニティスペースを活用したイベントや、地域住民向け講座を収益の一部に組み込むといった工夫も効果的です。地域との関係性が強くなることで、信頼や支持が自然と繋がります。

まとめ
介護事業者はその多くを介護報酬の公定価格に依存していることが多い状況です。介護報酬だけにとらわれず、介護事業の収益構造を改善する鍵は、「価値の再定義」と「選択と集中」にあります。ただ単にコストを削減するのではなく、利用者やスタッフが満足し、地域と共に成長する方法を探ることが、持続可能な収益モデル構築のカギとなるでしょう。
トップとして、冷静に現状を見直しながら、大胆に未来に投資することが、改善の先にある高品質なケアの持続を保証します。その選択と行動が、数字以上の成果――安心、信頼、そして誇りを生む組織文化を築き上げるのです。


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