第35章『満足という関係性——声を聴くことは、ケアを育てること』


2025.09.09 |投稿者:神内秀之介

「ここはいい施設ですねって言われると、嬉しいけど…
それって、本当に“満足”なんでしょうか」
沙耶がふと口にした言葉に、職員たちは静かに耳を傾けた。
“満足”という言葉が、どこか遠くに感じられた瞬間だった。

法人では、利用者満足度調査が年1回実施されていた。
アンケート形式で、サービス内容、職員対応、施設環境などを数値化。
結果は集計され、改善計画に反映されていた。
しかし沙耶は思った。「満足って、数字じゃ測れない。
“この人が、ここで自分らしくいられるか”が問われているんじゃないか」

彼女は「満足の質を育てるプロジェクト」を立ち上げた。
目的は、“満足度”を“関係性の手応え”として捉え直し、
利用者の声をケアの質の向上に活かす仕組みを整えること。

まず始めたのは、「語りのアンケート」。
従来の選択式ではなく、自由記述を中心にした形式へ。
質問はこう変えた:

  • 「最近、ここで嬉しかったことは何ですか?」
  • 「もっとこうしてほしいと思うことはありますか?」
  • 「あなたらしさが守られていると感じる瞬間はありますか?」

ある利用者はこう書いた。
「朝、職員さんが“今日はどんな気分ですか?”って聞いてくれるのが嬉しい。
その一言で、今日が始まる感じがする」

別の利用者はこう書いた。
「食事のとき、もう少しゆっくり食べたい。
急がされると、味が分からなくなる」

沙耶はこれらの声を「満足の語録」として職員会議で共有。
“改善点”ではなく、“ケアのヒント”として扱った。

さらに、「満足のふりかえり面談」を導入。
年2回、利用者と担当職員が1対1で語り合い、
「この施設での暮らしが、どんなふうに感じられているか」を確認する時間。
その場では、記録ではなく“関係性の手応え”が語られた。

ある日、佐藤さんがこう言った。
「ここにいると、“自分が自分でいられる”って思えるんです。
それが、満足ってことかもしれませんね」

沙耶はその言葉に、満足の本質を見た。
それは、“サービスの評価”ではなく、“存在の肯定”だった。

評価項目【33 Ⅲ-1-(3)-①――「利用者満足の向上を目的とする仕組みを整備し、取組を行っている」。】
それは、「“調査が行われているか”ではなく、“満足が育てられているか”が問われる。」

沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、利用者が“ここにいると、自分が大切にされてる気がする”と言った。
その一言が、満足の成果だと思う」

満足とは、サービスの結果ではない。
それは、“関係性の中で、自分が尊重されていると感じること”。
そしてその感覚が、ケアの質を静かに育てていくのだ。

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