44.災害対応マニュアルの作り方
2025.09.09 |投稿者:神内秀之介
〜主任ケアマネジャーが守る「命」と「安心」のレシピ〜
自然災害は突然訪れ、特に高齢者や障害を抱える方々にとっては命に関わる危険となることがあります。こうした非常時に頼りになるのが「災害対応マニュアル」です。主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)は、このマニュアルの整備を通じて、利用者や家族、そしてチーム全体を守る「安心の基盤」を作る重要な役割を担います。
しかし、マニュアルがただ作られただけでは正しく機能しません。現場で実際に役立つためには、その内容が具体的で簡潔であり、誰でも活用できるものである必要があります。今回は、新人主任ケアマネジャー向けに、ソーシャルワークの理念を基盤にした「災害対応マニュアルの作り方」を解説します。
1️⃣ 災害対応マニュアルとは?
災害対応マニュアルとは、地震や台風、火災などの災害時に備えた行動計画をまとめた文書であり、災害発生時に利用者や支援者が迅速かつ正確に対応するための指針となるものです。
• マニュアルが果たす役割
o 迅速な対応を可能にする:災害時のすべき行動が明確になれば、無駄な時間を減らすことができる。
o 連携を強化する:関係者ごとの役割や行動を整理し、混乱を防止する。
o 安心感を提供する:利用者や家族、スタッフが「備えがある」という安心感を持つことができる。
• ソーシャルワーク視点でのヒント
「予防(Prevention)」の理念を基に、災害リスクを最小限に抑えられる備えを提供しましょう。
2️⃣ 災害対応マニュアル作成の基本構成
災害対応マニュアルを作成する際には、読みやすく具体的な内容を心がけましょう。以下の構成を参考に、現場で活用しやすいマニュアルを作成してください。
• 基本構成の例
o 目的
災害時に利用者や支援者の命と安全を守ることを目的とする旨を明記する。
o 対応の基本方針
優先順位(命の安全確保→情報共有→対応の実施など)を明確に示す。
o 避難計画
避難経路、避難先、移動方法、必要な物資などを具体的に記載する。
o 支援者の役割分担
各関係者(家族、ケアマネジャー、自治体、防災関係者など)の役割を明確にする。
o 緊急連絡体制
連絡すべき関係者リストや優先順位を含む。
o 訓練と見直し
訓練やマニュアル更新のスケジュールを盛り込む。
3️⃣ 具体的な作り方のステップ
マニュアル作成は、単に文書を作成する作業ではなく、利用者や関係者と対話を重ね、現場の実態に即した実用的な内容を作り上げるプロセスです。
• ステップ1:課題の洗い出し
o 施設や地域、利用者に特有のリスクを把握する。
o 例:地震時に家具が倒れてくる危険、台風時の浸水リスクなど。
• ステップ2:情報収集
o 地域の避難所や福祉避難所の情報、防災グッズの整備要件を確認する。
o 自治体や防災機関との協力で最新情報を収集。
• ステップ3:初動対応フローの作成
o 地震が起きた場合、台風の警報が発令された場合、といったシナリオ別に流れ図を作る。
o 例:「STEP1:安全確認→家族・支援者に連絡→安全な場所へ移動」
• ステップ4:文字・図表で分かりやすく
o 簡潔にした文章と図表を活用し、誰でもすぐに理解できる形にする。
o 視覚的なチェックリストを用意するのも効果的。
• ステップ5:関係者との共有・意見反映
o チームや家族、自治会などと内容を共有し、フィードバックを受けて改良する。
• ソーシャルワーク視点でのヒント
「協働(Collaboration)」を大切にし、多職種や利用者家族と連携して実効性の高いマニュアルを作成しましょう。
4️⃣ マニュアルを現場で活かす訓練方法
作成したマニュアルが机上の空論とならないためには、実際に活用できるよう定期的に訓練を行うことが重要です。
• 訓練のポイント
o 実地訓練を実施する
実際に避難経路を歩き、避難にかかる時間や課題を確認する。
o 想定シナリオを作る
実際の状況を模倣したシナリオ(地震発生後10分以内にどう行動するか)で演習する。
o 振り返りを行う
訓練後に課題点や改善案を話し合い、記録する。
o 利用者の参加を促す
マニュアルを利用者目線で見直し、安心して実行できる内容にする。
• ソーシャルワーク視点でのヒント
ソーシャルワークの「成長(Development)」を念頭に、訓練を課題の発見と改善の機会と捉えましょう。
5️⃣ 災害対応マニュアル作成がもたらすメリット
適切な災害対応マニュアルが整備されていることで、利用者や支援者、地域社会にとって多くのメリットが得られます。
• メリットの例
o 迅速かつ正確な対応が可能
無駄のない行動で利用者の安全と命を守れる。
o 利用者・家族の安心感が向上
災害時でも適切な支援が受けられるという信頼が生まれる。
o チームの連携が強化される
訓練を通じて、スタッフ間の協力意識が向上する。
o 地域全体の防災力向上に貢献
マニュアルを地域と共有することで、地域福祉力が高まる。
• ソーシャルワーク視点でのヒント
「地域重視(Community-Oriented)」の視点から、地域全体の防災力を底上げする役割も視野に入れましょう。
🌟 最後に:命を守るマニュアル作成の意義
災害対応マニュアルは、命と生活を守るための「無言の支援ツール」として機能します。それを整備することは、主任ケアマネジャーとしての大きな責務であり、利用者や家族が安心して暮らせる未来を築くための基盤と言えます。
ソーシャルワークの理念を軸に、現場の実態に即した、実効性の高いマニュアルを作成しましょう。その1ページ1ページが、安心と信頼を育む力となり、災害に対する地域全体の強さを生み出す原動力となるのです。