第33章『変化を受け入れるための言葉——説明は、安心の橋渡し』
2025.09.07 |投稿者:神内秀之介
「急にサービスが変わるって言われても、どうしていいか分からないんです…」
利用者の佐藤さんが、ケアマネジャーとの面談後にぽつりと漏らした。
新しい加算の取得に伴い、支援内容が一部変更されることになった。
でも、その“説明”は制度の言葉で語られていた。
沙耶はその言葉に、胸がざわついた。
「説明って、“伝える”ことじゃなく、“受け取ってもらう”ことじゃないか」
そう思った瞬間、彼女の中で“説明の質”に対する問いが立ち上がった。
法人では、サービス開始・変更時の説明手順が整備されていた。
契約書、重要事項説明書、加算の案内、変更理由の文書化。
しかし、利用者の理解度や感情への配慮は、職員の裁量に委ねられていた。
沙耶は「説明の質を高めるプロジェクト」を立ち上げた。
目的は、“わかりやすさ”を“その人にとっての納得”として捉え直すこと。
まず始めたのは、「説明の翻訳ワーク」。
制度の言葉を、利用者の暮らしの言葉に“訳す”練習。
たとえば:
- 「個別機能訓練加算Ⅱ」→「〇〇さんが、もっと楽に歩けるように、運動の時間を少し増やします」
- 「生活機能向上連携加算」→「病院の先生と連携して、〇〇さんの生活がもっと安心になるようにします」
- 「サービス提供時間の変更」→「朝の時間が少し早くなりますが、〇〇さんのペースに合わせて調整します」
次に、「説明の場づくり」を見直した。
静かな場所で、時間を確保し、
利用者の表情を見ながら、ゆっくり話す。
説明後には「どう感じましたか?」「不安なことはありますか?」と尋ねる時間を設けた。
ある日、佐藤さんがこう語った。
「前は“制度だから”って言われてたけど、
今日は“私のためにこうする”って言ってくれた。
それなら、受け入れられそうです」
沙耶はその言葉に、説明の本質を見た。
それは、“制度の案内”ではなく、“暮らしの橋渡し”だった。
さらに、職員向けに「説明のふりかえりシート」を導入。
- どんな言葉を使ったか
- 相手の反応はどうだったか
- どこに不安が残っていたか
- 次回に活かせる工夫は何か
この記録が、説明の質を育てる土壌になった。
評価項目【31 Ⅲ-1-(2)-②――「福祉サービスの開始・変更にあたり利用者等にわかりやすく説明している」。】
それは、「“説明が行われているか”ではなく、“その人が安心して受け取れているか”が問われる。」
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、佐藤さんが“説明って、気持ちを整える時間なんですね”と言った。
その一言が、説明の成果だと思う」
説明とは、制度の言葉を届けることではない。
それは、“変化を受け入れるための言葉”を編むこと。
そしてその言葉が、利用者の暮らしに“納得の橋”を架けていくのだ。
#福祉サービス第三者評価を広げたい