155.地域社会と連携を強化する方法


2025.09.06 |投稿者:神内秀之介

介護事業は、その存在自体が地域社会と一つにつながっています。利用者さんを支える日々のケアは、それぞれの町や家族との深い関係の中で成立しています。だからこそ、組織の枠を超えた「連携」が、介護事業にとってはその質を高める最も自然な延長線上にあります。
しかし、連携はただ挨拶を繰り返すだけでは深まりません。単なる形骸化した会合にもなり得るのが、地域連携の難しさです。本物の協働を築くためには、トップマネジャーであるあなたが意思を持って地域との関係性を再定義し、境界を溶かし、新しい形の共創へと進む必要があります。

  1. 地域全体を「相互依存のパートナー」として捉える
    介護事業は単独では成立しません。行政、医療機関、地域住民、ボランティア、福祉関連事業者、さらには商業施設や教育機関が、すべて「相互依存」の関係性に位置しています。その多様なステークホルダーと“一緒に生きる”視点からアプローチを再定義しましょう。
    • ステークホルダー地図を描き出す
    自組織の利用者さんや家族に影響を与える地域資源を洗い出します。行政、医療機関、商業施設、教育機関まで幅広く網羅し、それぞれとの関係性や依存度を可視化。地図を作ることで、何が欠けているのか、どの関係を深めるべきかが明らかになります。
    • 地域の「未充足」を共通ゴールにする
    例:「認知症に優しいまちづくり」や、「多世代交流の場づくり」という形で、地域の未充足な課題や願望を共有ゴールに設定。他者との連携が「必要性」ではなく「共有する目的」になるよう、対話のベースを作ることが重要です。
  2. 窓口を固定し、多層的に関わる
    地域連携で鍵となるのは「安定した窓口」と「文脈の共有」です。一人の担当者に依存する関係づくりはリスクが大きいため、組織として多層的な関わりを設計しましょう。
    • チーム窓口制の導入
    地域連携における窓口を、特定の担当者だけに偏らず、複数人のチームで対応する仕組みにする。これにより関係性が個人の辞職に左右されず、連携が長期的に安定します。
    • 階層・場面ごとに異なる文脈を活用する
    具体的には、トップマネジャーによる行政や医療機関との定期戦略会談、中間管理職による地域資源との実務的な連携、現場職員が対面で利用者さんの暮らしをつなぐ、といった階層ごとの連携を分けることで、短期・中期・長期をカバーする連携網が構築されます。
  3. 連携を「場」として儀式化する
    人間関係がベースとなる地域連携には、一度作った関係を維持する“場としての儀式化”が必要です。安定した協働の環境は、定例化された取組みの中でこそ熟成します。
    • 地域カンファレンスを定期化する
    地域の主要なステークホルダー(行政、医療、介護、住民代表など)を集めた「多職種連携会議」を、月例あるいは四半期単位で開催。課題を共有するだけでなく、その成功事例を実際にスモールステップで試す場として機能させます。
    • 感謝の場を必ず含める
    例えば「年度の締めくくりに感謝を伝える昼食会」や、「特に貢献したプロジェクトメンバー表彰」を含めたイベントを毎年設定。感謝を通じた関係構築が、非公式でも密なつながりをつくります。
  4. イノベーションの文脈を持ち込む
    地域連携においても、新しい発想やテクノロジーを取り入れることは未来の課題を解決する鍵となります。
    • 高齢者や家族に直接関わるDXを地域で共有
    例えば、デジタル記録や見守りセンサーといったケアテックを、行政・医療・福祉施設と共同テスト運用。連携パートナーにも「未来の介護」を体感してもらい、次なる協力のきっかけをつくります。
    • 異業種にも扉を開く
    商業施設やスポーツクラブ、大学とのコラボレーションを検討。介護業界の枠を出た異業種との取り組みが、新たな地域活性化の起点となります。
  5. 現場の声と連携をつなげる
    現場の職員の「声」こそ、地域連携の最も正確な羅針盤です。利用者さんと密接に関わるスタッフの気づきを拾い上げ、それを地域関係者と共有することで、現実に即した連携アイデアが生まれます。
    • 体験共有の場を設ける
    例:「地域ケア会議に現場職員も参加し、利用者の具体例を共有する」。数字や方針だけでなく、日々の体験から見えるリアリティが、地域連携に熱度を加えます。
    • 現場の中に地域視点を根付かせる
    職員研修の中で地域との接点を意識させたり、「地域イベントに参加する」ことを一つのKPIとして設定することで、全職員に地域とつながる感覚を積極的に植え付けます。

まとめ
地域連携は、介護事業の内部プロセスを超え、外部の多様な力とつながる“創発の場”です。「相互依存を認識し、窓口を仕組み化し、場づくりを儀式化する」。そこに、現場の声と未来のイノベーションを重ねれば、介護事業者と地域全体が共に進化する基盤が整います。
地域の課題解決を共に描き、解を紡ぐ。その先にあるのは、地域全体が安心して暮らせる社会です。トップであるあなたの意志が、協働の未来を形づくる起点になります。声をかけ、場を設計し、地域とともに育つ未来を、今から進めていきましょう。


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