第32章『選ぶという安心——情報提供は、納得のための対話』


2025.09.06 |投稿者:神内秀之介

「どこまで説明すれば、安心してもらえるんでしょうか」
新しく相談窓口を担当することになった理佳が、沙耶にそう尋ねた。
パンフレットはある。契約書もある。説明資料もある。
でも、利用希望者の表情には、まだ“迷い”が残っていた。

法人では、福祉サービスの情報提供体制が整備されていた。
サービス内容、利用料金、加算の有無、職員体制、苦情対応の仕組み。
ホームページや案内冊子に明記されていた。
しかし沙耶は思った。「情報が“ある”ことと、“伝わる”ことは違う。
そして“伝わる”ことと、“納得できる”ことも違う」

彼女は「選ぶための対話プロジェクト」を立ち上げた。
目的は、利用希望者が“自分に合ったサービス”を“納得して選べる”よう、
情報提供の質を高めること。

まず始めたのは、「説明の順番の見直し」。
従来は、制度→料金→サービス内容の順だったが、
沙耶は「その人の不安→希望→選択肢→制度」の順に変更した。

たとえば:

  • 「どんなことが不安ですか?」
  • 「どんな暮らしができたら安心ですか?」
  • 「その希望に近いサービスは、こういうものがあります」
  • 「それぞれの違いは、こういう点です」
  • 「制度上の仕組みは、こうなっています」

この順番にすることで、情報が“その人の言葉”に近づいた。

さらに、施設見学時には「選択のためのチェックリスト」を配布。
「自分が大切にしたいこと」「譲れない条件」「迷っていること」を記入してもらい、
職員との対話の中で整理していく。

ある利用希望者はこう語った。
「お風呂に毎日入りたい。でも、介助が必要で迷っている」
沙耶は「この施設では、毎日入浴が可能です。
ただし、介助体制や時間帯に制限があるので、〇〇という方法もあります」と説明。
その人は「それなら安心です」と笑顔を見せた。

また、契約前には「選択のふりかえり面談」を実施。
「このサービスを選んだ理由」「他と迷った点」「納得できたこと・不安なこと」を確認し、
“選んだという実感”を育てる時間とした。

評価項目【30 Ⅲ-1-(2)-①――「利用希望者に対して福祉サービス選択に必要な情報を積極的に提供している」。】
それは、「“情報が提示されているか”ではなく、“その人が納得して選べるよう支援されているか”が問われる。」

沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、利用希望者が“ここなら、自分の暮らしが続けられそう”と言った。
その一言が、情報提供の成果だと思う」

情報提供とは、制度の説明ではない。
それは、“その人の希望”に寄り添いながら、
“選ぶという安心”を育てる対話。

そしてその対話が、福祉サービスの入口に、
“納得という土台”を築いていくのだ。

#福祉サービス第三者評価を広げたい


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