第29章『声に応えるという公益——地域の福祉ニーズが、施設を動かす』
2025.09.03 |投稿者:神内秀之介
「最近、ひとり暮らしの高齢者が増えていて…」
地域包括支援センターの職員が、施設との連携会議でそう語った。
「見守りが足りない」「相談できる場がない」「孤立が進んでいる」
その言葉に、沙耶は静かにうなずいた。
“施設の外”にある課題が、確かにそこにあった。
法人では、地域貢献活動としての取り組みがいくつか行われていた。
介護予防講座、認知症サポーター養成、地域イベントへの協力。
でも沙耶は思った。「公益的な活動って、“施設が決めること”じゃなくて、“地域の声に応えること”じゃないか」
彼女は「地域の声から始めるプロジェクト」を立ち上げた。
まず、地域の福祉ニーズを把握するために、町内会・民生委員・学校・子育て支援団体などにヒアリングを実施。
出てきた声はこうだった:
- 高齢者の孤立が心配
- 子育て中の親が相談できる場がない
- 認知症の人への対応に不安がある
- 地域の中で“福祉の相談窓口”が見えづらい
沙耶はこれらの声をもとに、施設の機能を活かした公益的な活動を企画した。
たとえば:
- 【見守り支援】職員が月1回、地域の高齢者宅を訪問し、簡単な健康チェックと会話を実施
- 【子育て相談会】施設の空き時間を活用し、保育士と介護職員が“育児と介護の交差点”を語る場を提供
- 【認知症カフェ】地域住民と利用者が混ざり合い、認知症について“暮らしの言葉”で語り合う場を設置
- 【福祉の窓口】施設の玄関に“地域相談コーナー”を設け、誰でも気軽に話せる場を常設
活動は、地域の人々の声を起点に設計され、
“施設の都合”ではなく、“地域の必要”に応えるかたちで育っていった。
ある日、地域の高齢者がこう語った。
「ここに来ると、誰かが話を聞いてくれる。
それだけで、安心できるんです」
沙耶はその言葉に、公益の本質を見た。
それは、“制度の使命”ではなく、“関係性の応答”だった。
評価項目Ⅱ-4-(3)-②――「地域の福祉ニーズにもとづく公益的な事業・活動が行われているか」。
それは、“活動があるか”ではなく、“地域の声に応えているか”が問われる。
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、地域の人が“ここがあると、町が少しあたたかくなる”と言った。
その一言が、公益の成果だと思う」
公益とは、施設が地域に“何かをする”ことではない。
それは、地域の声に耳を澄ませ、
その声に応えるかたちで、福祉の力を差し出すこと。
そしてその応答が、町の安心を少しずつ育てていくのだ。
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