148.組織文化の構築と継続的な改善


2025.08.29 |投稿者:神内秀之介

トップマネジャーにとって文化は、スローガンではなく“日々の選択の総和”です。掲げた言葉より、会議で何を優先し、誰を評価し、何をやめるか――その一つひとつが文化を形づくります。介護事業の現場で持続的に価値を生み続ける文化は、「言葉」「仕組み」「儀式」の三層を整え、学び続ける回路を内蔵しています。

  1. 文化は三層で設計する(言葉・仕組み・儀式)
    • 言葉(価値観の文法):3〜5つの行動原則を動詞で定義する(例「尊厳を守る」「率直に伝える」「学びを共有する」)。抽象語は避け、現場で判定できる言い回しにする。
    • 仕組み(意思決定のガイド):採用・評価・昇進・予算配分に価値観を埋め込む。たとえば「率直」を重視するなら、1on1頻度とフィードバック事例を評価項目に入れる。
    • 儀式(繰り返しの場):朝礼の30秒価値観ストーリー、月次の“やめることリスト”更新、四半期の「成功と学び」公開レビュー。繰り返しが文化を定着させる。
  2. 「何を称賛するか」で文化は決まる
    • 褒める基準を明文化し、具体例で称賛する(例「誤薬防止の二重確認を守り、迷いを報告してくれたこと」)。成果だけでなく、プロセスの良さを光らせる。
    • 表彰は小刻みに、全拠点で回す。“見えない努力”を可視化すると、模倣可能な良い行動が増殖する。
  3. 採用・オンボーディング・昇進を文化の“入口と幹”に
    • 採用で「スキル適合」より「価値観整合」を先に判定。面接はケース面談で行動原則への反応を見る。
    • 初月オンボーディングで、価値観の“ミニ辞書”(望ましい・望ましくない行動の対比例)を配布し、バディと週次振り返り。
    • 昇進は“価値観の体現度”を必須条件に。数字が良くても行動原則に反する場合は見送る――この一貫性が文化の背骨になる。
  4. 学習する文化の回路を内蔵する
    • 失敗は“誰が”ではなく“どうすれば”で語る、非難なきレビューを定例化(事実→要因→次の一手→仕組み化)。
    • ナレッジは30秒Tipsから着手し、読まれたものを1ページ手順へ昇格。月次で「更新された標準」をアナウンスする。
    • 指標は二階建てで運用(結果:離職率・転倒率、先行:1on1実施率・手順更新率・家族連絡即応率)。先行指標を“文化の体温”として見る。
  5. 「やめる力」が文化を澄ませる
    • 半期ごとに“やめることリスト”を更新。形骸化した会議・帳票・慣習を削り、価値観に合う活動へ資源を再配分。
    • 新規施策には必ず「終了条件」を設定(期待効果・検証期間・撤退基準)。足し算だけの組織は濁る、引き算が核を際立たせる。
  6. 物語とデータの二重記録
    • 月次レビューで、数字と1本の現場ストーリーをセットで共有。数字に温度を、物語に検証を。
    • トップは同じ言葉で繰り返し語る。ブレない再現性が、現場の安心を生む。

すぐに始められる3つの一手
• 今週:行動原則を動詞で3つに再定義し、各原則に「望ましい/望ましくない行動」を1行ずつ付記して配布。
• 今月:非難なきレビュー(30分)の定例枠を全拠点に設置し、学びを1ページ手順に昇格する流れを開始。
• 来月:半期「やめることリスト」を経営会議で決定し、削減資源の再配分先(人・時間・予算)を公表。

まとめ
文化は掲げるものではなく、選び、続け、やめることで形になる。言葉・仕組み・儀式をそろえ、称賛と学びの回路を回し、引き算で澄ませる。トップが資源配分と同じ一貫した言葉で示すとき、文化は現場の習慣となり、継続的な改善は“努力”から“自然”へと変わります。現場の一日に触れる文化づくりこそ、介護事業の最も強い競争力です。


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