145.組織のビジョンを明確化する方法


2025.08.26 |投稿者:神内秀之介

介護事業のトップマネジャーにとって、ビジョンは掲示物でもスローガンでもありません。意思決定を素早くし、組織のエネルギーを一方向へ流す「羅針盤」です。曖昧な言葉は、現場で曖昧な行動を生みます。逆に、研ぎ澄まされた一行は、迷いを減らし、背骨のある運営を可能にします。ここでは、ビジョンを「語れる言葉」から「動く仕組み」へと昇華させる道筋を提示します。

  1. ビジョンは一行で言えるか
    • 条件は三つだけ。「誰のために」「何をもたらし」「どう在るか」。
    • 例(型):私たちは[地域の高齢者と家族]に、[尊厳と安心の日常]を届けるために、[関係性と科学の両輪で挑戦し続ける組織]である。
    • 30秒で言えないビジョンは、現場で使えません。語尾まで削ぎ落とし、比喩に逃げない言葉で。
  2. ミッション・ビジョン・バリューの「役割分担」を決める
    • ミッション(存在理由):なぜ私たちは必要か。
    • ビジョン(目指す姿):3~5年後、どう見えるか。
    • バリュー(行動規範):日々、何を優先するか。
    • 混線を断つために、各々を一文で定義し、重複語を排除する。言葉の粒度を揃えるほど、意思決定は速くなる。
  3. ステークホルダーの「未充足」を言語化する
    • 利用者、家族、現場スタッフ、地域・医療、行政。各々の「まだ満たされていない期待」を5つずつ書き出す。
    • ビジョンは願望ではなく、未充足への具体応答であるべき。机上ではなく、現場の声とデータに根を下ろす。
  4. 物語で検証する(ナラティブ・テスト)
    • 「ビジョンが実現した一日」を1000字で描く。誰がどう行動し、何が変わるのか。
    • 物語に“余白”や“矛盾”が多ければ、言葉が抽象に過ぎる証拠。語り直して、行動が思い浮かぶところまで具体化する。
  5. 意思決定のフィルターを設置する
    • 3つの判断基準に落とす。「この選択はビジョンに近づくか」「利用者の尊厳を高めるか」「現場の持続可能性を高めるか」。
    • 重要案件は必ずこのフィルターを通す。会議議事録にチェック欄を設け、形骸化を防ぐ。
  6. メトリクスは“結果”と“手触り”の二階建て
    • 結果指標(転倒率、家族満足、離職率、紹介比率)と、先行指標(ケアプラン見直し率、1on1実施率、家族連絡の即応率)をセットで定義。
    • 月次レビューで「数字」と「現場の手触り(エピソード)」を対にして共有。数値だけでも、物語だけでも組織は曲がる。
  7. 儀式化する(カレンダーに刻む)
    • 季節ごとに「ビジョン・レビュー(30分)」を全拠点で実施。達成・乖離・次の一手を一枚に。
    • 半期ごとに「やめることリスト」を更新。足し算だけでは濁る。引き算がビジョンを澄ます。
  8. 現場に“翻訳”する
    • 各職種・各拠点が「自分たちの一行」に言い換えるワークを実施。例:夜勤版、通所版、在宅版。
    • バリューをチェックリスト化し、日々の業務に埋め込む(申し送り、記録、家族対応の型)。「感じが良い」ではなく「行動で分かる」基準に。
  9. 伝え方のルールを決める
    • トップは毎回、同じ言葉で語る。ブレは不安を生み、同語反復は安心を生む。
    • 3つの定型を用意:30秒版(朝礼)、3分版(会議冒頭)、30分版(採用・地域説明)。媒体ごとに原稿を固定。

すぐに始める3つの一手
• 今週:経営陣で「一行ビジョン」を作り、30秒でそらんじられるまで磨く。
• 今月:ナラティブ・テスト(“実現した一日”)を各拠点で作成し、横展開。
• 来月:判断フィルターと二階建てメトリクスを導入、会議体のアジェンダに固定。

まとめ
ビジョンは飾るものではなく、選び、手放し、動かすための道具です。言葉を研ぎ、物語で確かめ、仕組みに落とし、儀式で守る。その一貫性が、組織の迷いを減らし、現場の誇りと結果を同時に高めます。
トップであるあなたが、同じ一行を繰り返し、判断と資源配分で示すとき、ビジョンはスローガンから現実へと姿を変えます。


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