第25章『暮らしの外側に、つながりを編む——地域交流は、関係性の再発見』
2025.08.25 |投稿者:神内秀之介
「昔は、町内会の盆踊りに毎年出てたんですよ」
利用者の佐藤さんが、夕食後にぽつりと語った。
その声に、沙耶はふと立ち止まった。
施設の中での暮らしは守られている。
でも、“外の世界”とのつながりは、どこか遠くなっていた。
法人では、地域交流の取り組みが制度的に整備されていた。
地域イベントへの参加、ボランティア受け入れ、施設見学の実施。
掲示板には「地域交流月間」の予定表が貼られていた。
でも沙耶は思った。「交流って、“予定”じゃなく、“関係”じゃないか」
彼女は「暮らしの外側プロジェクト」を立ち上げた。
目的は、“利用者の過去と地域の現在をつなぐ”こと。
まず始めたのは、「記憶の地図づくり」。
利用者一人ひとりに「昔よく行った場所」「好きだった店」「思い出の風景」を尋ね、
地域の地図に書き込んでいった。
佐藤さんは「駅前の喫茶店」「神社の階段」「商店街の文房具屋」を挙げた。
沙耶はその地図をもとに、地域の人々に声をかけた。
「この場所、今もありますか?」「この店、どんなふうに変わりましたか?」
すると、喫茶店の店主が「昔の常連さんに会いたい」と言い、
商店街の若手が「施設で出張販売してみようか」と提案してくれた。
施設では「記憶の交流会」が開かれた。
地域の人が訪れ、利用者と“昔の町”を語り合う時間。
「この階段、昔はもっと急だったよね」
「文房具屋の店主、よく飴くれたんだよ」
その語りが、利用者の表情をほどいていった。
さらに、地域の小学生との「昔の遊び教室」も始まった。
利用者が“けん玉”や“おはじき”を教え、
子どもたちが“今の遊び”を紹介する。
それは、世代を越えた“暮らしの交換”だった。
評価項目【23 Ⅱ-4-(1)-①――「利用者と地域との交流を広げるための取組を行っている」。 】
それは、「“イベントの数”ではなく、“関係性の深さ”が問われる。」
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、佐藤さんが“町に戻った気がした”と言った。
その一言が、地域交流の成果だと思う」
地域との交流とは、
“外に出ること”ではなく、“外とつながること”。
そしてそのつながりが、利用者の“暮らしの輪郭”を広げていく。
施設は、閉じた空間ではない。
それは、地域の記憶と未来が交差する場所。
その交差点に、ケアの新しい風が吹いていた。
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