第24章『納得のある運営——公正さは、関係性の中に宿る』

「この決定って、誰がどうやって決めたんですか?」
職員会議で、若手の理佳がそう尋ねたとき、
沙耶は一瞬、空気が止まったように感じた。
でもその問いは、職場の“健全さ”を映す鏡だった。

法人では、経営・運営に関する意思決定は、理事会・管理者会議・職員代表会議を通じて行われていた。
議事録は保存され、必要に応じて共有される。
財務状況や加算取得状況も、月次報告として開示されている。
制度的には“透明性”が担保されていた。
でも沙耶は思った。「透明であることと、公正であることは違う。
“見える”だけではなく、“納得できる”必要がある」

彼女は「納得のある運営」を目指し、いくつかの取り組みを始めた。

まず、意思決定プロセスの“見える化”。
法人内の主要な決定事項について、
「誰が」「どの場で」「どんな根拠で」決めたかを、
職員向けに図解で共有するようにした。
それは、“決定の背景”を伝えることで、
職員の理解と納得を促す仕組みだった。

次に、「職員代表の声を反映する場」の強化。
月例の職員代表会議では、各部署からの意見を集約し、
経営判断に反映するプロセスを明文化。
「この意見は、〇月の会議で採用され、〇〇の改善につながった」
という“声の軌跡”を職員にフィードバックするようにした。

さらに、「利用者・家族の声を経営に活かす仕組み」も整備。
定期的なアンケートだけでなく、
“語りの場”としての懇談会を設け、
「この声が、〇〇の運営方針に反映されました」と伝えるようにした。

ある日、理佳がこう言った。
「最近、“決まりごと”が“誰かの考え”に見えるようになってきました。
それって、安心につながる気がします」

沙耶はその言葉に、運営の本質を見た。
公正さとは、制度の整合性だけでなく、
“関係性の納得”によって支えられるものなのだ。

評価項目【22 Ⅱ-3-(1)-②――「公正かつ透明性の高い適正な経営・運営のための取組が行われているか」。】
それは、「“制度が整っているか”だけでなく、“その制度が人の納得を育てているか”が問われる。」

沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、職員が“この決定には意味がある”と言った。
その一言が、運営の公正さだと思う」

公正な運営とは、誰かの声が届き、
その声が制度に触れ、
制度がまた誰かの安心につながること。

それは、数字では測れない、
“関係性の質”によって育まれるものなのだ。

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