第24章『納得のある運営——公正さは、関係性の中に宿る』
2025.08.24 |投稿者:神内秀之介
「この決定って、誰がどうやって決めたんですか?」
職員会議で、若手の理佳がそう尋ねたとき、
沙耶は一瞬、空気が止まったように感じた。
でもその問いは、職場の“健全さ”を映す鏡だった。
法人では、経営・運営に関する意思決定は、理事会・管理者会議・職員代表会議を通じて行われていた。
議事録は保存され、必要に応じて共有される。
財務状況や加算取得状況も、月次報告として開示されている。
制度的には“透明性”が担保されていた。
でも沙耶は思った。「透明であることと、公正であることは違う。
“見える”だけではなく、“納得できる”必要がある」
彼女は「納得のある運営」を目指し、いくつかの取り組みを始めた。
まず、意思決定プロセスの“見える化”。
法人内の主要な決定事項について、
「誰が」「どの場で」「どんな根拠で」決めたかを、
職員向けに図解で共有するようにした。
それは、“決定の背景”を伝えることで、
職員の理解と納得を促す仕組みだった。
次に、「職員代表の声を反映する場」の強化。
月例の職員代表会議では、各部署からの意見を集約し、
経営判断に反映するプロセスを明文化。
「この意見は、〇月の会議で採用され、〇〇の改善につながった」
という“声の軌跡”を職員にフィードバックするようにした。
さらに、「利用者・家族の声を経営に活かす仕組み」も整備。
定期的なアンケートだけでなく、
“語りの場”としての懇談会を設け、
「この声が、〇〇の運営方針に反映されました」と伝えるようにした。
ある日、理佳がこう言った。
「最近、“決まりごと”が“誰かの考え”に見えるようになってきました。
それって、安心につながる気がします」
沙耶はその言葉に、運営の本質を見た。
公正さとは、制度の整合性だけでなく、
“関係性の納得”によって支えられるものなのだ。
評価項目【22 Ⅱ-3-(1)-②――「公正かつ透明性の高い適正な経営・運営のための取組が行われているか」。】
それは、「“制度が整っているか”だけでなく、“その制度が人の納得を育てているか”が問われる。」
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、職員が“この決定には意味がある”と言った。
その一言が、運営の公正さだと思う」
公正な運営とは、誰かの声が届き、
その声が制度に触れ、
制度がまた誰かの安心につながること。
それは、数字では測れない、
“関係性の質”によって育まれるものなのだ。
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