第20章『学びの扉は、ひとつじゃない・・・教育機会の“個別性”という視点』
2025.08.20 |投稿者:神内秀之介
「研修、出たいけど…子どもが熱で」
パート職員の美咲が、申し訳なさそうに言った。
沙耶は「大丈夫。あなたの学びのタイミングは、あなたの生活に合わせていい」と微笑んだ。
法人では、教育・研修の機会は原則“全職員対象”とされていた。
しかし実際には、勤務形態や家庭事情、体力的な負担などで、
“参加できる人”と“参加しづらい人”の差が生まれていた。
沙耶はその現実に向き合った。
「教育機会の“平等”って、同じ研修を受けることじゃない。
その人に合った“学びの扉”を開くことじゃないか」
彼女はまず、「研修の多様化」を進めた。
- 対面研修に加え、録画視聴型のオンデマンド研修
- スマホで見られる“5分学び動画”シリーズ
- 夜勤者向けの“深夜の語り場”研修
- 子育て中の職員向け“土曜午前のミニ講座”
さらに、「研修参加の“代替手段”」も整備した。
- 研修資料の配布と個別ふりかえり面談
- 参加できなかった職員への“学びのサマリー”共有
- 研修内容を現場で実践する“OJT型フォローアップ”
沙耶は「学びの記録ノート」を導入した。
職員一人ひとりが、自分のペースで学んだことを記録し、
年2回、上司とふりかえりを行う。
それは、「“学びの軌跡”を可視化する仕組み」だった。
ある日、美咲がノートにこう書いていた。
「動画で見た“認知症ケアの声かけ”を、今日試してみた。
利用者さんが笑ってくれて、嬉しかった」
沙耶はその一文に、教育機会の本質を見た。
“学びは、誰かの笑顔につながる瞬間”なのだと。
評価項目【19 Ⅱ-2-(3)-③――「職員一人ひとりの教育・研修の機会が確保されている。」】
それは、「“制度的に用意されているか”だけでなく、“その人が実際に学べるか”が問われる。」
沙耶は、研修計画の末尾にこう記した。
「教育機会とは、“その人の生活と尊厳に寄り添う学びの設計”である」
それは、制度の柔軟性と、現場のまなざしが織りなす営みだった。
学びの扉は、ひとつじゃない。
それぞれの生活、それぞれの時間、それぞれの方法。
そのすべてが、“育ちの場”になりうる。
そしてその扉を開く鍵は、
「あなたの学びを、私たちは大切に思っています」という、
小さなまなざしなのだ。
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