第19章『理念を育てる研修・・・計画は、哲学の地図である』


2025.08.19 |投稿者:神内秀之介

「この研修、何のためにやってるんでしょうか…」
中堅職員の恵がぽつりと漏らした。
マニュアルをなぞるだけの座学に、どこか虚しさが漂っていた。

沙耶はその言葉に立ち止まった。
「研修って、“正解を教える場”じゃなくて、“私たちの考え方を育てる場”じゃないのか」
そう思った瞬間、彼女の中で何かが動き出した。

法人には教育・研修に関する基本方針があった。
「職員が専門性と人間性を高め、利用者の尊厳を守る力を育む」
しかし、その方針が現場の研修計画にどう反映されているかは曖昧だった。

沙耶はまず、「研修体系図」を見直した。
新人・中堅・リーダー・管理職――それぞれの段階で、
「何を学ぶか」ではなく「何を育てたいか」を中心に再設計した。

たとえば新人研修では、

  • 法人理念の“物語化”ワークショップ
  • 利用者の“人生史”を読み解く演習
  • 「自分がケアされるなら、どんな人に?」という内省対話

中堅研修では、

  • ケーススタディから“判断の哲学”を語る場
  • 他職種との“価値観のすり合わせ”演習
  • 「自分が後輩に伝えたいことは何か」を言語化する時間

研修計画は、「“理念を育てる地図”」として再構築された。
各研修には目的・到達目標・評価方法が明記され、
年間スケジュールに沿って実施された。

さらに沙耶は、「研修の“ふりかえり文化”」を育てた。
研修後には必ず「何を感じたか」「何が変わったか」を語る時間を設けた。
それは、知識の定着ではなく、“意味の定着”を促す営みだった。

ある日、恵がふりかえりでこう語った。
「理念って、壁に貼ってある言葉だと思ってた。
でも今日、“自分の判断の根っこ”にあるものだって気づきました」

沙耶はその言葉を記録に残した。
「研修は、理念を“生きた言葉”にする場である」
それが、彼女の教育方針の核心だった。

評価項目【18 Ⅱ-2-(3)-②――「職員の教育・研修に関する基本方針や計画が策定され、教育・研修が実施されている。」】
それは、「“計画があるか”だけでなく、“その計画が職員の哲学を育てているか”が問われる。」

沙耶はふと、理念の一文を見つめた。
「私たちは、すべての人の尊厳を守る」
その言葉が、研修のすべての起点であり、終点だった。

研修とは、制度ではない。
それは、組織の“考え方”を育てる営み。
そして職員一人ひとりが、その考え方を“自分の言葉”にしていく旅路なのだ。

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