第17章『空気の質を整える——働きやすさは、感じ取る力から始まる』
2025.08.17 |投稿者:神内秀之介
「最近、朝がつらいんです」
パート職員の美咲が、面談でぽつりと漏らした。
沙耶はその言葉に、職場の“空気の質”が揺らいでいることを感じた。
法人では、職員の就業状況や意向を把握するための制度が整っていた。
勤務時間の記録、残業状況、休暇取得率、定期的な意向調査。
数字は整っていた。
でも沙耶は思った。「数字の裏にある“気持ち”を、誰が拾っているだろうか」
彼女は「空気の質を測るプロジェクト」を立ち上げた。
働きやすさを、“制度”ではなく“感覚”から捉える試みだった。
まず始めたのは、「職場の温度チェックシート」の導入。
月1回、職員が以下の項目を自己評価する:
- 今月、職場に安心感はあったか
- 今月、自分の意見を言える場があったか
- 今月、誰かに感謝されたか
- 今月、自分の働きが意味あると感じたか
このシートは匿名で提出され、集計結果は職場ごとに共有された。
数値化された“空気の質”は、職場改善のヒントになった。
次に導入したのは「意向面談の再設計」。
従来の“希望勤務時間”や“異動希望”だけでなく、
「今、何に疲れているか」「今、何にやりがいを感じているか」など、
感情に寄り添う質問項目を追加した。
美咲は「朝の送迎と家事が重なって、出勤がつらい」と語った。
沙耶は彼女の勤務時間を30分後ろ倒しに変更し、
その分、夕方のケアに重点を置く配置にした。
数週間後、美咲は「朝が楽になって、仕事に集中できるようになりました」と笑った。
評価項目【16 Ⅱ-2-(2)-①――「職員の就業状況や意向を把握し、働きやすい職場づくりに取組んでいる」。】
それは、「“制度の把握”と“感情の理解”が両立しているか」が問われる。
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「働きやすさとは、“働きたいと思える空気”をつくること。
その空気は、数字ではなく、声と表情から生まれる」
制度は大切。でも、
その制度が“誰かの気持ち”に寄り添っているかどうかが、
働きやすさの本質なのだと思う。
#福祉サービス第三者評価を広げたい