第15章『働き続けたいと思える風景——人材確保は、居場所の設計から始まる』
2025.08.15 |投稿者:神内秀之介
「この仕事、続けられるかな…」
新人の理佳が休憩室でぽつりとつぶやいた。
沙耶はその言葉に、かつての自分を重ねた。
“辞めたい”ではなく、“続けられるか”という問い。
その違いに、職場の空気が宿っている気がした。
法人では、福祉人材の確保と定着に向けた計画が策定されていた。
採用強化、研修制度の整備、キャリアパスの提示、メンタルサポート体制の構築。
それらは、制度としては整っていた。
でも沙耶は思った。「制度があるだけじゃ、人は残らない。
“ここにいていい”と思える瞬間がなければ」
彼女は職員アンケートを読み込んだ。
「先輩に相談しづらい」「自分の成長が見えない」「ケアの意味が分からなくなるときがある」
その声は、“制度の隙間”にある感情だった。
沙耶は「居場所づくりプロジェクト」を提案した。
制度の枠組みを活かしながら、職員が“自分の存在を肯定できる場”を設計する試みだった。
具体的な取り組みはこうだった:
- 新人向け「ケアの意味を語る会」:月1回、先輩職員が“自分が続けている理由”を語る場
- 中堅向け「キャリアの棚卸しシート」:自分の成長と今後の希望を可視化するツール
- 全職員対象「居場所マップ」:職場内で“安心できる人・空間・時間”を記録し共有するワーク
これらの取り組みは、法人の人材定着計画に組み込まれ、
「制度の中に、感情の居場所をつくる」という方針が明文化された。
数か月後、定着率が上昇。
新人の離職が減り、中堅職員の満足度も向上。
何より、職員同士の会話に“続ける理由”が混ざるようになった。
評価項目【14 Ⅱ-2-(1)-①――「必要な福祉人材の確保・定着等に関する具体的な計画が確立し、取組が実施されている」。】
それは、「“制度の設計”と“感情の居場所”が両立しているかどうか」が問われる。
沙耶は記録の余白にこう書いた。
「今日、理佳が“この仕事、好きになってきたかも”って言った。
その一言が、制度の成果だと思った」
人材確保とは、求人票の工夫ではなく、
“働き続けたいと思える風景”を、職場の中に育てること。
その風景がある限り、制度は人を支える力になる。
#福祉サービス第三者評価を広げたい