第7章『制度語を暮らし語に・・・事業計画を“伝える”というケア』


2025.08.07 |投稿者:神内秀之介

「事業計画って、利用者さんにも関係あるんですか?」
沙耶の問いに、事務職の本間さんはうなずいた。
「もちろん。計画の中には、ケアの方針やサービスの目標が含まれている。
でも伝え方が、“制度語”になりがちなんだよね」

制度語・・・それは、「加算取得」「体制強化」「連携推進」のような用語。
沙耶は思った。「この言葉のままじゃ、誰にも届かないかもしれない」

ある日、家族向けの施設説明会で、事業計画の概要が配布された。
A4の用紙にびっしり書かれた文字列。
一人の家族が言った。「頑張ってるのは分かるけど、何が変わるのかはよく分からない」

その言葉が、沙耶の心に残った。
彼女は事務と連携して、“暮らし語訳”の試みに挑戦することにした。

原文:「サービス提供体制加算の取得を目指す」
翻訳:「安心して暮らせるように、職員体制をより厚くします」

原文:「地域連携会議への積極的参加」
翻訳:「地域の医療・福祉の人たちと話し合い、利用者さんの“暮らしの選択肢”を増やします」

原文:「記録様式の統一と効率化」
翻訳:「ケアの内容を分かりやすく共有できるよう、職員の記録の書き方を整えます」

これらをポスターにまとめ、「法人ビジョンと今年の取組み」と題して玄関に掲示した。
さらに、利用者懇談会で“計画を一枚の絵にする”取り組みを始めた。

絵にはこんな場面が描かれていた。
・職員同士がメモを見せ合いながら「〇〇さんらしさって、やっぱり朝の歌だよね」と語る
・家族が施設の中庭でお孫さんと面会しながら「もっとイベントあったらいいね」と話す
・地域の人が「この施設の取り組み、町の暮らしのヒントになるね」と言う

沙耶は思った。
「事業計画って、“制度の航海図”だけど、その針路には利用者さんの“らしさ”がある」

懇談会の最後、ある利用者が言った。
「計画って書類だと思ってたけど、“これからの希望”の話だったんですね」

評価項目【7 Ⅰ-3-(2)-② 事業計画は、利用者等に周知され、理解を促している。】
それは、“掲示して終わり”ではなく、「制度語”を“暮らし語”に訳し、希望として伝え直す力」が問われる。

その後、法人では「ケアの言葉で読む事業計画書」という冊子を作成し、利用者・家族に配布した。
沙耶の訳語が多くのページに引用されていた。

制度の言葉が、人の暮らしに触れるとき――
それは、ケアが“説明”を超えて、“共感”になる瞬間だった。

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