126.利用者さんとスタッフの間に立つ時の心構え
2025.08.07 |投稿者:神内秀之介
介護現場のミドルマネジャーとして、利用者さんとスタッフの間に立つことは、日々避けられない状況の一つです。利用者さんの満足と安心を第一に考えながら、同時にスタッフの働きやすさやモチベーションを保つ――そのバランスを取るのは簡単ではありません。双方の視点やニーズが異なる中で、どうすれば「調和」を生み出し、どちらかに偏ることなく適切な判断ができるのでしょうか。
ここでは、哲学的な視点を取り入れながら、利用者さんとスタッフの間に立つ際に求められる心構えを考えてみます。それは、「ただ間に立つ」だけではなく、「調和を生み出す橋渡し」としての役割を果たすための姿勢でもあります。
- 「双方の視点」に耳を傾ける
哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「理解は対話の中に生まれる」と語りました。利用者さんとスタッフの間に立つ時、まず大切なのは、双方の話を丁寧に聞き、その背景や意図を理解することです。
たとえば、利用者さんが「対応が遅い」と不満を感じている一方、スタッフは「業務の優先順位を考えた結果」として動いているかもしれません。そのどちらも正当な理由を持っているため、どちらが「正しい」かを判断するのではなく、それぞれの視点を平等に捉え直すことが重要です。耳を傾ける姿勢が、調和の第一歩を生み出します。 - 「中立的な立場」を保つ
哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「人間は自由を選び取る存在だ」と述べました。利用者さんとスタッフの間に立つ時、どちらか一方に偏ることなく、中立的かつ冷静な視点を保つことが、的確な対応をするための鍵となります。
たとえば、利用者さんの言葉をそのままスタッフに伝えるのではなく、「利用者さんの意図はこういうものだと考えられますが、どう感じますか?」と状況を整理し、両者が納得できる形で対話を促します。この「偏らない姿勢」が信頼を生む土台となります。中立的な立場が、橋渡し役としての信頼を築きます。 - 「感情」ではなく「本質」を見つめる
哲学者ルネ・デカルトは、「冷静な判断は感情から自由である」と語りました。利用者さんやスタッフの意見が感情的なものであっても、その背後にある「本質」を見つけることが課題解決のヒントとなります。
たとえば、スタッフが「忙しくて対応できない」と訴える背景には、人員不足や業務の偏りが潜んでいるかもしれません。一方、利用者さんの不満の裏には「もっと気にかけてほしい」という心の声があるかもしれません。感情をそのまま捉えるのではなく、その奥にある本質を探る視点を持つことが大切です。本質を見つめる力が、問題解決への道を拓きます。 - 「目的」を共有する
哲学者アリストテレスは、「共通の目的が人々を結びつける」と語りました。利用者さんとスタッフが対立するように見える場面でも、最終的には「利用者さんが安心して過ごせる環境を作る」という共通の目的があるはずです。
たとえば、利用者さんのケアに関する課題が生じた際、「私たちが目指しているのは、利用者さんの笑顔のためです。そのためにはどうすれば良いでしょうか?」と問いかけることで、対立ではなく協力の姿勢を引き出すことができます。目的を共有することで、相手を理解し合う土壌が作られます。共通の目的が、対立を超えた協力を生み出します。 - 両者に「安心感」を与える
哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「倫理は他者への配慮から始まる」と述べました。利用者さんとスタッフの間に立つ際には、双方に「この人が間に立ってくれるなら大丈夫だ」と思わせる安心感を与えることが、調和を生むカギとなります。
たとえば、利用者さんには「スタッフも一生懸命対応していますので、少しお時間をください」、スタッフには「利用者さんの気持ちもこれだけは理解しておきましょう」と、双方に配慮のある言葉をかけます。双方の安心感が、信頼を築き、スムーズなコミュニケーションにつながります。安心感を与えることで、職場全体の調和が深まります。
まとめ
利用者さんとスタッフの間に立つ際の心構えは、「双方の視点に耳を傾ける」「中立的な立場を保つ」「感情ではなく本質を見る」「目的を共有する」「安心感を与える」という5つのポイントに集約されます。それは、ただ「間に立つ」だけではなく、双方のつながりを深め、現場全体の調和を生み出すリーダーシップのあり方でもあります。