第6章『設計図の中で働くということ』
2025.08.06 |投稿者:神内秀之介
「この業務って、誰が決めてるんでしょうか?」
ある日、沙耶が先輩に尋ねた。
先輩はファイル棚から一冊の冊子を取り出した「喜福ふくし会 事業計画書」。
そこには、年度ごとの重点施策と、それに伴う具体的な活動内容が細かく記載されていた。
「毎日の業務は、この計画書の中にある“方針”に沿って組まれてるんだよ」
そう聞いて、沙耶は思った。
「じゃあ、記録の様式が変わったのも、災害訓練の日程が増えたのも、全部“計画”だったんだ」
翌週、沙耶は事業計画の振り返り会議に参加した。
進捗状況の一覧。未達成項目の要因分析。次年度への見直し案。
資料には“評価”や“PDCA”という言葉が並ぶ。
でもその中に、「職員アンケートの声を反映」「業務負担の見直し」など、現場の言葉が生きていた。
管理者の小林さんは言った。
「事業計画って、経営陣だけが使うものじゃない。
記録の書き方も、休憩のとり方も、みんなこの“設計図”の中にある」
沙耶は、記録の業務改善チームに加わり、自分たちの声を計画に届ける役割を担うことになった。
現場職員へのヒアリング。「この記録、何のために残してるんだろう?」「もっと簡単にできる方法は?」
それをもとに、「業務フロー簡素化」「項目見直し」の提案書を作成した。
翌月、事業計画の“見直し案”に沙耶たちの提案が反映された。
「現場記録の簡素化と目的意識の共有」・・・それは、業務の中に“納得”が育つ一歩だった。
その後、法人では事業計画を「見える形で共有する」取り組みが始まった。
月例職員会議で、計画の進捗を説明する時間を設ける。
計画書に職員コメント欄を追加する。
事業計画を“職員の言葉で読み直す”ワークショップも開催された。
評価項目【6 Ⅰ-3-(2)-① 事業計画の策定と実施状況の把握や評価・見直しが組織的に行われ、職員が理解している。】
それは、「“設計図を描いて終わり”ではなく、現場の手に渡り、読み取られ、書き直される構造」があるかどうかで問われるのかもしれない。
ある日、沙耶は後輩にこう語った。
「業務の裏に、“法人の設計図”がある。
でもその設計図って、偉い人だけじゃなく、ケアをする人の声も描かれてるんだよ」
設計図の中で働く――
それは、自分の仕事が“法人の歩みに触れている”ことに気づく瞬間だった。
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