第4章『見えない季節を、職場で迎えるために』


2025.08.04 |投稿者:神内秀之介

「うちは今後、どんな介護をしていくんですか?」
ある勉強会で沙耶が口にしたその問いに、管理者の小林さんは少し黙ってから言った。
「実はそれを考える会議、来週あるよ。出てみる?」

沙耶は“施設ビジョン策定会議”に初めて参加した。
ホワイトボードには、大きく「2026年→2029年」という年表。
地域包括ケアの連携強化、ICT導入率、施設内研修体制の見直し。
それは“未来の計画”でありながら、どこか“現場の手触り”から遠く感じられた。

「ICT導入で記録効率が上がるって、ほんとですか?」
沙耶は思わず尋ねた。
事務職員はこう答えた。「効率も大事だけど、“記録する意味”が変わるかもしれない。
現場職員が、自分の声を“見える化”できるようになる可能性もある」

その言葉が、沙耶の想像を動かした。
“見えない季節”・・・それは、まだ誰も体験していない介護のかたち。
未来計画とは、それを迎えるための「準備」ではないか。

彼女は夜勤の記録欄に、こんなメモを残した。

「利用者さんが夢の話をしてくれた。『ひ孫に昔話を聞かせたい』って。
ICT記録が進んだら、その話を動画で残して、家族に届けられるかもしれない」

その一文が、法人の“中期計画提案書”の中に引用された。
「利用者の個性を保存・共有するICT活用」・・・それは、沙耶の現場発のビジョンだった。

その後、法人では職員の声をもとにした“5年ビジョンミーティング”が定期開催されるようになった。
そこでは、未来の課題だけでなく、“未来の可能性”が語られた。

  • 「ケアの質」ではなく「ケアの余白」を大切にしたい
  • 地域とのつながりが“支援”ではなく“共創”になるように
  • マニュアルを超えて、記録が“思い出”になる仕組みを
  • ストレス対策ではなく、職員が“自分を誇れる風土づくり”を

評価項目【4 Ⅰ-3-(1)-① 中・長期的なビジョンを明確にした計画が策定されている。】
それは、“数字の未来”だけでなく、「“心の風景”を描く力があるか」によって評価されるのかもしれない。

沙耶は、勤務表の裏にこう書いた。

「未来は、勤務時間の中で少しずつ育っている。
業務のすき間に宿る“らしさ”が、法人の季節を決めていく」

その言葉が、法人の中期ビジョン資料の最後のページに載った。
見えない季節を、きちんと迎えるために・・・
計画とは、“準備”ではなく、“心構え”なのかもしれない。

#福祉第三者評価を広めたい


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