第3章『灯りをともす、課題という道しるべ』


2025.08.03 |投稿者:神内秀之介

「経営課題って何を指すんですか?」
新人研修で、沙耶はぽつりと質問した。
管理者の小林さんは一枚の紙を見せてくれた。
“サービス提供体制加算 未取得”。“職員定着率 低下傾向”。“災害対応計画 更新滞り”。

「これが、今法人が抱えている課題だよ」
でもそれは、単なる“改善点のリスト”に見えた。
沙耶は言った。「現場では困ってないような気がします」
その言葉に、小林さんは目を細めて、こう言った。

「課題は、“まだ見えてない困難”を予報するものなんだよ。
水道の蛇口を、少しずつ閉めていく音かもしれない」

その後、沙耶は現場の日常に耳を澄ませるようになった。
夜勤中、排泄ケアのタイミングが変わっている。
新しい職員が、記録の表記を悩んでいる。
研修時、災害時の対応が曖昧だった。

それは、“なんとなく不安”のようなもの。
でも、数字にはまだ現れていない。
沙耶は気づいた。「経営課題って、現場の“予兆”を言語化したものなんだ」

彼女は職員アンケートにこう書いた。
「サービス加算が取れない理由は、“記録”に対する自信のなさでは?」
「定着率の低下は、育成が“OJT頼み”になっているからでは?」
「災害対応の更新が滞るのは、マニュアルが現場感覚に沿っていないからかも」

その声が法人会議に届き、“記録スキル研修”の新設、“育成体制のフロー図作成”、“災害訓練に現場職員の役割追加”など、具体的な取り組みに結びついた。

ある日、沙耶は先輩に尋ねた。
「経営って、結局誰のものなんでしょうか?」
先輩は笑って言った。
「法人全体の“暮らし”を守るためのものだよ。
だから、課題って、困ってる人の声を制度語に訳すことなのかもね」

その言葉が心に残った。
評価項目【3 Ⅰ-2-(1)-② 経営課題を明確にし、具体的な取り組みを進めている。】
それは“改善表のチェック”ではなく、「“現場の予兆を制度の動力に変える力”」が問われている。

沙耶は、経営課題を“風向き”と名づけた。
その風向きを読む人がいれば、向かい風も道しるべになる。
法人の航海は、そんな小さな感性によって導かれていく。

次回、彼女はその風に立ち向かう“羅針盤づくり”に挑むことになる。

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