7.倫理的ジレンマへの向き合い方


2025.08.02 |投稿者:神内秀之介

倫理的ジレンマへの向き合い方
〜主任ケアマネジャーが示すべき判断と姿勢〜
介護現場では、利用者の権利や家族の希望、法的規制などが複雑に絡み合い、選択肢の中で何が「最善」であるのか見極めるのが難しい状況、いわゆる倫理的ジレンマに直面することがあります。新人主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)として、このような場面にどう向き合えばよいのか、ソーシャルワークの理念に基づいて考えてみましょう。

1️⃣ 倫理的ジレンマとは何かを理解する
倫理的ジレンマとは、「どちらを選んでも何らかの利益や価値が損なわれる可能性がある状況」を指します。たとえば、以下のようなケースが挙げられます:
• 利用者の意思 vs 家族の希望
利用者本人が「自宅で生活したい」と望む一方で、家族は「特養への入所が必要」と考えている。
• 個人の尊厳 vs 安全の確保
認知症の利用者が外出を望むが、徘徊リスクがあるため外出を止めるべきか迷う。
• 法令遵守 vs 人間的配慮
福祉サービスの利用条件に合わない利用者が困窮している場合、制度の枠内での対応が難しい。
こうした場面では答えが一つではなく、主任ケアマネジャーとしての判断力が試されます。

2️⃣ 「利用者中心の視点」を最優先する
倫理的ジレンマに向き合う際、ソーシャルワークにおける基本原則である「利用者中心の視点」を常に軸に据えましょう。
• 利用者の意思を尊重する
まずは利用者本人の意見や希望をしっかりと聞き取ります。認知機能の低下がある場合でも、その人らしい生活を実現するための潜在的なニーズを引き出す努力をしましょう。
• 利用者の権利を守る
プライバシーや意思決定の自由が侵害されることがないよう、法的枠組みの中で権利を擁護します。
• 倫理的ジレンマの問い
「この選択が利用者の生活の質(QOL)をどれだけ向上させられるか?」を常に問い続ける姿勢が重要です。

3️⃣ 「多職種協働」で多角的に解決策を探る
倫理的ジレンマは、一人で抱え込むべき問題ではありません。チームや関係機関との「多職種協働」により、複数の視点から解決策を検討することが効果的です。
• ケースカンファレンスを活用する
利用者や家族を含めたカンファレンスを開催し、状況を共有しながら、最善策を模索します。それぞれの立場や専門性を尊重し、意見交換を行いましょう。
• 専門家の助言を求める
医師や弁護士、地域包括支援センターなど外部の専門家の知見を取り入れることで、より現実的で公平な判断が可能となります。
• ソーシャルワーク視点でのヒント
多職種協働のプロセスは、ソーシャルワークの「パートナーシップ」の理念に基づいており、各々の専門性を活かしながら利用者の利益を守る仕組みです。

4️⃣ 「判断のプロセス」を透明化する
倫理的ジレンマに対する判断には、根拠とプロセスの透明性が求められます。結論だけでなく、なぜその判断を下したのかを明確にすることで、関係者全員の納得感が高まります。
• 判断基準を明確にする
法令や制度、倫理的な原則に基づいて意思決定を行う際、その基準を関係者に説明しましょう。
• 記録を丁寧に残す
どのような経緯で判断したのかを記録に残すことで、後日の検証や改善に役立てることができます。

5️⃣ 「支え続ける姿勢」を持つ
倫理的ジレンマにおける判断は、時に全ての関係者を完全に満足させることが難しい場合もあります。しかし、重要なのは、判断後も利用者や家族、チームを支え続ける姿勢です。
• 柔軟性を持つ
ひとたび結論を出したとしても、状況が変われば再検討をためらわない柔軟な姿勢が大切です。
• 信頼関係を育む
利用者や家族、関係者が少しでも納得し、安心してもらえるよう、丁寧なフォローアップを行いましょう。
• ソーシャルワーク視点でのヒント
「プロセス重視(Process-Oriented)」の姿勢を持ちながら、信頼を築くことが支援の質を高める鍵となります。

🌟 最後に:主任ケアマネジャーの倫理的リーダーシップ
倫理的ジレンマに直面したとき、主任ケアマネジャーとして示すべきは「利用者の生活の質を守る覚悟」と「透明で公平な判断力」です。ソーシャルワークの理念である「人間の尊厳」や「自己決定権の尊重」を基盤としつつ、周囲と協働し、課題に向き合いましょう。
判断が難しい場面ほど、あなたの存在がチームや利用者にとって重要な支えとなります。そのプロセスを重ねることで、あなた自身もリーダーとしての信頼と成長を手にすることができるはずです。


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