113.利用者の困りごとに気づく力


2025.07.25 |投稿者:神内秀之介

介護の現場で、利用者さんにとって本当に必要なケアを提供するためには、「困りごとに気づく力」が欠かせません。しかし、その困りごとは、必ずしも言葉や明確なサインとして表れるとは限りません。時には些細な仕草や表情の変化に隠れていることもあります。この「小さな違和感」に気づけるかどうかが、利用者さんの安心感や信頼を深める鍵となります。

「気づく力」は、単なる観察力にとどまらず、哲学的な思考や態度を通じて育まれるものです。ここでは、哲学的な視点を交えながら、利用者さんの困りごとに気づき、そこからより良いケアを実践するための方法について考えてみましょう。

  1. 「観察」の力を磨く
    哲学者マルティン・ハイデッガーは、「人間は行動の中にその存在を映し出す」と語りました。利用者さんの困りごとに気づくためには、まず相手の行動や仕草、表情を注意深く観察する力を磨くことが重要です。

たとえば、いつもより食事のペースが遅い、座るときに少し躊躇している、話し方に元気がないといった、小さな変化を見逃さないこと。そうした「いつもと違う」サインに気づくことで、困りごとの兆候をいち早くキャッチできます。観察は、困りごとを見つけるための最初のステップです。

  1. 「相手の立場に立つ」視点を持つ
    哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「他者の顔に表れる無限の意味を理解する」と述べました。利用者さんの困りごとに気づくためには、相手の立場に立ってその感情や価値観を想像する力が必要です。

たとえば、「この時間帯に何度もナースコールを押すのは、何かを伝えたかったのだろう」「この表情の変化にはどんな不安が隠れているのだろう」と考えることで、表面的な行動の背後にある気持ちに寄り添えるようになります。相手の立場に立つ視点が、困りごとをより深く理解する力を育てます。

  1. 小さな「違和感」を言葉にする
    哲学者ソクラテスは、「問いかけこそが、知恵の始まりである」と説きました。利用者さんの困りごとに気づいたら、その違和感を確認するために、丁寧に問いかけてみることが大切です。

たとえば、「今日の食事、食べにくいところがありましたか?」「この椅子、少し座り心地に違和感がありますか?」と具体的に問いかけることで、利用者さん自身も気づかなかった困りごとを表に出しやすくなります。小さな違和感を言葉にすることで、利用者さんの本音を引き出すきっかけを作ります。

  1. 「対話」を通じて共感を深める
    哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「対話は相互理解を深める道である」と述べました。困りごとに気づいた後は、利用者さんとの対話を通じて、その背景や本質を理解することが重要です。

たとえば、「最近、歩くときに少し不安そうに見えるのですが、どんな感じですか?」と優しく問いかけることで、相手が感じている不安や困惑を具体的に引き出すことができます。対話の中にこそ、利用者さんの困りごとを解決するためのヒントが隠されています。対話を深めることで、困りごとに向き合う道筋が見えてきます。

  1. チームで「気づく力」を共有する
    哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「人間は他者との関係性の中に存在する」と語りました。利用者さんの困りごとに気づく力は、個人の力だけでなく、チーム全体で共有し、補い合うことでさらに強化されます。

たとえば、「最近、○○さんが少し疲れた様子に見えるので、みんなで声かけを工夫してみましょう」といった情報をチームで共有することで、より質の高いケアが可能になります。気づきを共有する仕組みをつくることで、見落としを防ぎ、利用者さんに安心感を与える環境を作り上げることができます。チーム全体で気づく力を共有することで、ケアの質が向上します。

まとめ
利用者さんの困りごとに気づく力を磨くためには、「観察を徹底する」「相手の立場に立つ」「小さな違和感を言葉にする」「対話を通じて共感する」「チーム全体で気づきを共有する」という5つのポイントが重要です。それは、介護という人間同士の関わりの中で、利用者さんが安心して笑顔で過ごせる瞬間を生み出すための鍵でもあります。


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