102.「導く力」と「寄り添う心」
2025.07.14 |投稿者:神内秀之介
介護現場におけるミドルマネジャーの役割は、単なる管理者ではありません。利用者さん、スタッフ、上司、すべての関係者が安心して働き、生き生きと過ごせる環境をつくる「リーダー」として、現場を支える存在です。しかし、リーダーシップと一口に言っても、それは命令や指示を出すことではなく、チーム全体を巻き込みながら目標に向かって進む力を発揮すること。ここでは哲学的な視点を交えながら、介護現場におけるリーダーシップの在り方について考えていきます。
- ビジョンを示す「灯台」のような存在に
哲学者アリストテレスは、「人間の行動は目的によって形作られる」と語りました。リーダーシップを発揮するためには、チーム全体が目指すビジョンを明確に示し、その方向にみんなを導く力が必要です。
たとえば、「利用者さんにとって安心と笑顔が溢れる場所を作る」「スタッフが互いに支え合える職場を目指す」といった明確な目的を掲げ、その目標の実現に向けて行動する姿を見せること。ビジョンを共有することで、チーム全員が同じ方向を向き、連帯感が生まれます。リーダーとは、ビジョンを示し、前を照らす灯台のような存在なのです。
- 対話を大切にした「共感のリーダーシップ」
哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「対話は理解を深め、関係性を育む」と述べました。命令だけで動かすリーダーではなく、スタッフ一人ひとりの声に耳を傾け、共感を持ちながらチーム全体を導く「共感のリーダーシップ」が介護現場では求められます。
たとえば、「最近の業務で困っていることはないですか?」「どんな働き方が一番自分らしいと思いますか?」と、スタッフに積極的に声をかける。また、悩みを共有し、共に解決策を考えることで、「この人と一緒に働きたい」という信頼が生まれます。共感を軸にしたリーダーシップが、チームの結束を強くします。
- 強みを引き出し、活かす
哲学者フリードリヒ・ニーチェは、「人は自分の強みを見出すことで成長する」と語りました。リーダーとして全員に同じ指示を出すのではなく、スタッフ一人ひとりの個性や強みを見極め、それを活かす役割を果たすことが重要です。
たとえば、コミュニケーションが得意なスタッフには利用者さんや家族との窓口役を、整理整頓が得意なスタッフには備品管理などを任せる。役割を適切に割り振ることで、メンバーそれぞれが「自分がチームに貢献している」という実感を持ち、モチベーションが高まります。強みを引き出すリーダーは、チーム全体を一つの力に変えることができます。
- 自らが「模範」を示す
哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「人間は行動によって自らを証明する」と語りました。リーダーシップは言葉だけでなく、行動によって周囲に示すものです。利用者さんへのケアやトラブル対応、日々の業務の中で、リーダー自身が模範となる姿を見せることで、自然とメンバーはその背中についていきます。
たとえば、忙しい時ほど冷静にチームをサポートしたり、小さな仕事にも真剣に取り組む姿を見せることで、スタッフは「この人がいるから頑張れる」と感じるようになります。自らが模範となる姿勢が、信頼されるリーダーの条件です。
- チーム全体を「成長」させる視点を持つ
哲学者ラルフ・ウォルド・エマーソンは、「成長はすべての生命の本質だ」と語りました。介護現場でのリーダーの役割は、目の前の業務を回すだけでなく、スタッフ全員が成長し、より強いチームを築けるような環境を作ることでもあります。
たとえば、定期的な振り返りミーティングを行い、「なぜこの方法が良かったのか」「どうすればもっと良くなるのか」を全員で考える習慣をつける。また、学びの場を提供し、スタッフが新しい技術や知識を身につけられる環境を整えることも大切です。リーダーとしてチーム全体の成長を促すことが、未来の活力に繋がります。
まとめ
介護現場におけるリーダーシップの発揮は、「ビジョンを示す」「共感を大切にする」「強みを活かす」「模範を示す」「チーム全体を成長させる」という5つのポイントに集約されます。それは単なる管理ではなく、チーム全員が安心して働き、自らの力を発揮できる環境を作る「導く力」と「寄り添う心」が求められる役割です。
