101.「調和」と「信頼」のバランス
2025.07.13 |投稿者:神内秀之介
介護現場のミドルマネジャーは、現場を支えながら、上司と部下との架け橋となる重要な役割を担っています。しかし、時には「上司からの要求」と「部下の声」の間で板挟みとなり、どう振る舞えばよいのか分からなくなる瞬間があるかもしれません。その葛藤は、責任あるポジションの証でもありますが、同時にストレスを感じやすい課題でもあります。
ここでは、哲学的な視点を取り入れながら、上司と部下の板挟みを乗り越え、調和を生むための考え方や行動について考えてみましょう。
- 両者の「目的」を見つめ直す
哲学者アリストテレスは、「すべての行動は目的を持つ」と語りました。上司と部下の間で板挟みになったとき、まずはそれぞれが何を目指しているのか、その「目的」を冷静に見つめ直すことが大切です。
たとえば、上司が「業務効率を上げたい」と考えている一方で、部下が「時間が足りない」と感じている場合、その根底には「より良いケアを提供したい」という共通の目的があることに気づくかもしれません。同じゴールを見据えれば、対立ではなく協力の可能性が見えてきます。目的に目を向けることで、両者の意見をつなぐ架け橋を作れます。
- 「対話」を重ねる
哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「対話は理解を深める力を持つ」と述べました。板挟みの状況を乗り越えるには、上司とも部下とも対話を重ね、双方の意図や気持ちを深く理解することが不可欠です。
たとえば、上司には「現場ではこういった課題があります」と現場の状況を具体的に説明し、部下には「上司はこういう意図で改善を求めています」と背景を丁寧に伝える。このように、対話を通じてお互いの立場を橋渡しすることで、信頼と納得感を生むことができます。対話こそが、板挟みを解消するための最強のツールです。
- 自分の「スタンス」を明確にする
哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「人間は選択を通じて自らを定義する」と語りました。上司と部下の間で板挟みになったときに重要なのは、自分自身のスタンスを明確にし、どちらかに偏りすぎないことです。
たとえば、上司の指示をそのまま伝えるだけでは部下の信頼を失います。一方で、部下の不満をそのまま上司にぶつけるのも逆効果です。中間管理職としての立場を活かし、状況を客観的に分析し、「自分はこう考え、この方法が最善だと思う」と主体的に判断する姿勢を示すことが求められます。自分のスタンスをしっかり持つことが、信頼を築く土台となります。
- 「調和」を目指す柔軟な対応
哲学者ラルフ・ウォルド・エマーソンは、「調和を生むには、柔軟な心が必要である」と述べました。上司と部下の意見が対立する場面では、どちらか一方に寄り添うのではなく、調和を目指して柔軟な対応を心がけることが大切です。
たとえば、上司からの指示を現場の状況に合わせてアレンジする提案をしたり、部下の声を整理して上司に伝える際に「改善案」としてまとめたりすることで、両者の歩み寄りを促すことができます。柔軟な対応は、双方にとって前向きな解決策を生むきっかけになります。柔軟さは、対立を協力の場に変える力を持っています。
- 自分自身を「ケア」する
哲学者セネカは、「自分を大切にすることが、他者を助ける力になる」と述べました。板挟みの状況は、精神的に消耗することも多いため、自分自身のケアも忘れないことが大切です。
たとえば、日々の中で自分の気持ちや状態を振り返る時間を持つ、信頼できる同僚や先輩に相談する、休日にはリフレッシュする時間を確保するなど、心身の健康を維持する工夫を取り入れましょう。自分が安定した状態でいることで、上司と部下の間で冷静な判断がしやすくなります。自分自身をケアすることが、板挟みを乗り越えるエネルギーを生み出します。
まとめ
上司と部下の板挟みを乗り越えるためには、「目的を見つめ直す」「対話を重ねる」「スタンスを明確にする」「調和を目指す柔軟な対応」「自分自身をケアする」という5つのポイントが重要です。それは、単なる「中間役」に留まらず、チーム全体の調和と信頼を生むリーダーシップへと繋がります。
