95.介護現場での「こころの余白」をつくる
2025.07.07 |投稿者:神内秀之介
介護の現場では、利用者さんに寄り添う日々の中で、高い責任感や「もっと良いケアを提供したい」という思いが重なり、自分自身を追い詰めてしまうことがあります。完璧を求めすぎたり、小さなミスに対して必要以上に自分を責めてしまう経験は、誰しも一度はあるのではないでしょうか。しかし、自分を大切にすることも、良いケアを提供するための重要な一歩です。ここでは、哲学の視点を取り入れながら、介護職としての「こころの余白」をつくるメンタルケアについて考えてみましょう。
- 「不完全さ」を受け入れる謙虚さ
哲学者アルベール・カミュは、「人間は不完全であるがゆえに美しい」と語りました。仕事において完璧を目指す姿勢は素晴らしいものですが、私たちはロボットではなく、時に間違いや失敗をする「不完全な存在」です。その事実を受け入れることが、心を軽くする第一歩です。
たとえば、「今日は思うように利用者さんに寄り添えなかった」と感じたとしても、その日の中で「できたこと」「上手くいったこと」に意識を向けてみましょう。完璧を求めるのではなく、「不完全な中で最善を尽くす」ことに価値を見出すことで、自己否定のスパイラルから抜け出すことができます。
- 自分との対話を続ける
哲学者ソクラテスは、「自分自身と対話することが知恵の始まりだ」と述べました。忙しい日々の中で、自分の感情や考え方に目を向ける時間を持つことは、心を健やかに保つために欠かせません。
たとえば、一日の終わりに「今日はどんなことが嬉しかった?」「どんな場面で自分を褒められるだろう?」と自分に問いかけてみると、日常の中に小さな喜びや努力の痕跡を見つけることができます。自分との対話を習慣化することで、心の中に安心感や自己肯定感を育てることができます。
- 「他者とのつながり」を大切にする
哲学者マルティン・ブーバーは、「人間は他者との関係の中で真に存在する」と語りました。自分を追い詰めないためには、悩みや不安を周囲と共有し、支え合う関係を築くことも大切です。
たとえば、同僚や先輩に「ちょっとこんなことが苦しかった」と話すだけでも、気持ちが軽くなることがあります。また、他の人の経験や視点を聞くことで、「自分だけではない」と気づくことができます。他者とのつながりは、孤独感を和らげ、心に余裕をもたらす大きな力となります。
- 「休むこと」を肯定する
哲学者セネカは、「休息は次の行動を支える活力の源である」と述べました。介護の現場では、「忙しいから休む暇がない」と感じることもあるかもしれません。しかし、無理を続けてしまうと、心だけでなく体も疲れ果て、結果的に力を発揮できなくなってしまいます。
たとえば、「今日は5分だけでも自分のために静かに座る時間を作ろう」「休日には趣味やリフレッシュできることを優先しよう」といった形で、意識的に休む時間を確保しましょう。休息を取ることは、怠けることではなく、自分の力を取り戻すための大切な行動なのです。
- 自分を「褒める」習慣を持つ
哲学者ラルフ・ウォルド・エマーソンは、「自分を愛することが、すべての始まりだ」と語りました。介護の仕事は他者を支えることが基本ですが、自分自身をねぎらうことも同じくらい重要です。
たとえば、「今日は利用者さんが笑顔を見せてくれた」「同僚の作業を手伝えた」といった、自分の行動を一つひとつ振り返り、声に出して自分を褒めてみましょう。小さなことでも自分を肯定する習慣を持つことで、心にゆとりが生まれます。自分を褒めることは、自己肯定感を高め、メンタルを安定させる柱となります。
まとめ
自分を追い詰めないためには、「不完全さを受け入れる」「自分との対話」「他者とのつながり」「休むことの肯定」「自分を褒める」という五つのメンタルケアのポイントを意識することが大切です。それは、無理をせず、自分の心に余白を持たせるための哲学的アプローチです。
