85.言葉が紡ぐ温かいケア


2025.06.27 |投稿者:神内秀之介

介護の現場では、利用者さんとの会話が日常の中で大きな役割を果たします。食事や移動のサポートといった身体的なケアだけでなく、心に寄り添う会話が、利用者さんの安心や喜び、さらには生きる力に繋がることも少なくありません。しかし、ただ言葉を交わすだけでは本当の「寄り添い」にはなりません。ここでは、哲学的な視点を交えながら、利用者さんの心に寄り添うための会話の工夫について考えてみましょう。

  1. 「聴く力」を磨く――相手の声に心を傾ける
    哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「理解は聴くことから始まる」と語りました。利用者さんの心に寄り添うためには、こちらが話すよりも、まずは相手の話に耳を傾けることが大切です。

たとえば、利用者さんが何気なく話した「今日は天気がいいね」という言葉。その裏には、「外に出たい」「穏やかな気分でいる」といった気持ちが隠れているかもしれません。相手の言葉をそのまま受け取るのではなく、その奥にある気持ちや意図を感じ取ろうとする姿勢が、心に寄り添う第一歩です。「聴く」ことは、相手の存在を尊重する行為そのものです。

  1. 相手の「言葉の世界」に入る
    哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、「言葉は世界の絵である」と述べました。利用者さんが発する言葉には、その人が見ている「世界」が反映されています。その世界に寄り添うことが、相手との深い理解を育てる鍵となります。

たとえば、利用者さんが昔の思い出を語るとき、「その話はもう何度も聞いた」と流すのではなく、「その時どんな気持ちでしたか?」と問いかけてみる。そうすることで、利用者さんの心の中に秘められた大切な思いを共有することができます。相手の言葉の中にある「世界」を一緒に歩むことで、心のつながりが生まれます。

  1. 笑顔と「温かさ」を言葉に込める
    哲学者ラルフ・ウォルド・エマーソンは、「言葉は心のエネルギーを反映する」と語りました。利用者さんとの会話では、言葉そのものだけでなく、その言葉に込められる「温かさ」や「笑顔」が、相手の心に届く大きな要素となります。

たとえば、「おはようございます。今日はどんな夢を見ましたか?」と、笑顔を添えながら語りかけると、それだけで会話が和らぎ、利用者さんの気持ちも明るくなることがあります。言葉に「温かさ」というエネルギーを込めることで、心の距離を縮めることができるのです。

  1. 沈黙を恐れない
    哲学者マルティン・ハイデッガーは、「沈黙は言葉を超えた対話の場である」と語りました。利用者さんとの会話の中で、言葉が途切れる瞬間を恐れず、心地よい沈黙を共有することも時には大切です。

たとえば、「話すことが特にない」という時間も、横に座りながら静かに過ごすことで、安心感や穏やかさをもたらすことがあります。沈黙の中にも、寄り添う心は確かに存在しています。言葉を超えた「間」を共有することで、相手の心に深く寄り添うことができるのです。

  1. 相手の「存在」を認める言葉を伝える
    哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「他者の存在を認めることが倫理の出発点である」と語りました。利用者さんとの会話では、相手の存在そのものを認め、ありのままを受け入れる言葉を意識して伝えることが重要です。

たとえば、「◯◯さんがいてくれて安心します」と伝えることで、利用者さんに「自分は大切にされている」という感覚を与えることができます。ただの挨拶や形式的な言葉ではなく、相手にしっかりと向き合い、その存在を肯定する言葉が大きな力を持つのです。

まとめ
利用者さんの心に寄り添う会話の工夫は、「聴く力」「言葉の世界への共感」「笑顔と温かさ」「沈黙の共有」「存在を認める言葉」という5つの要素から成り立っています。それらを日々の中で意識することで、会話を通じて利用者さんとの信頼関係を深めることができます。


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