80.利用者さんの声に耳を傾ける技術


2025.06.22 |投稿者:神内秀之介

介護の現場では、利用者さん一人ひとりと向き合い、その声を聴くことが何よりも大切です。しかし、その「声」とは単に言葉として発されるものだけではなく、表情や仕草、沈黙の中に込められた思いも含まれます。それらを受け取り、理解するためには、単なる「聞く」ではなく、深く「耳を傾ける」技術が必要です。ここでは、哲学的な視点を交えながら、利用者さんの声に耳を傾ける技術について考えます。

  1. 聴く姿勢を整える
    哲学者マルティン・ブーバーは、「すべての本当の人生は出会いである」と語りました。利用者さんの声に耳を傾けることは、その人と真剣に「出会う」ことから始まります。ここで重要なのは、「話を聞く側の姿勢」です。

たとえば、利用者さんが何か話している時、こちらが焦ったり、次の業務のことを考えていては、その声の真意を掴むことは難しいでしょう。まずは深呼吸をし、相手の目を見て、「あなたの話を尊重しています」という姿勢を示すことが大切です。相手に向き合う「姿勢」こそ、耳を傾けるための出発点です。

  1. 相槌とリアクションで「共感」を示す
    哲学者ハンス・ゲオルク・ガダマーは、「理解は共感の中で深まる」と述べました。利用者さんの声に耳を傾ける際、ただ黙って聞くのではなく、適切な相槌やリアクションを取り入れることで、共感が生まれます。

たとえば、「そうなんですね」「それは大変でしたね」と言葉にするだけでなく、うなずきや表情も加えることで、相手が「自分の話をしっかり受け取ってもらえた」と感じられるようになります。この共感のリアクションが、利用者さんとの信頼関係を深める重要な一歩です。

  1. 言葉以外の「声」を聴く
    哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「他者の顔にはその人のすべてが表れる」と語りました。利用者さんの声に耳を傾ける技術とは、必ずしも言葉に限られたものではありません。表情、仕草、沈黙――それら非言語の「声」にも耳を傾けることが求められます。

たとえば、利用者さんが何も言わずに視線をそらす仕草。そこには「言葉にできない不安」や「遠慮の気持ち」が潜んでいるかもしれません。こうした非言語的なサインを注意深く観察し、「何か気になることはありませんか?」と優しく声をかけることが、隠された本音を引き出す鍵となります。

  1. 先入観を手放す
    哲学者ソクラテスは、「無知の知」を説きました。それは、自分の先入観や決めつけを捨てることで、相手の言葉をそのまま受け取れるようになるという教えです。

たとえば、「この利用者さんはいつも同じ話を繰り返すから」と思い込んでしまうと、その背後にある本当の気持ちを見逃してしまうかもしれません。一方で、新鮮な気持ちで相手の声を受け取ることで、「実は寂しさを感じている」「誰かに気づいてほしい」という意図に気づくことができます。先入観を手放すことで、相手の声をありのままに受け止める力が育まれます。

  1. 聴いた後の「応え方」を大切にする
    哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「人間の存在は他者との関わりの中にある」と語りました。利用者さんの声に耳を傾けた後、それにどう応えるかも重要です。たとえ、その場で解決できない問題であっても、「あなたの声を受け止めました」というメッセージを伝えることで、安心感を与えることができます。

たとえば、「お話ありがとうございます。すぐには解決が難しいかもしれませんが、一緒に考えていきましょう」と伝えることで、利用者さんが「自分の声が届いた」と感じられるのです。耳を傾けることは始まりであり、その声にどう応えるかがケアの質を決定づけます。

まとめ
利用者さんの声に耳を傾ける技術は、ただ「聞く」という行為を超えて、相手の存在そのものを受け入れる哲学的な営みでもあります。それは、聴く姿勢を整え、共感を示し、非言語的な声を察知し、先入観を手放し、最後に応える行動で完成します。


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