76.思いやりから生まれる調和
2025.06.18 |投稿者:神内秀之介
介護の現場は、多くの人が集い、生活を支え合う「小さな社会」です。そこには利用者さん、家族、職員が関わり合いながら、それぞれが安心して過ごせる空間を作り上げています。そして、その「社会」を成り立たせるために欠かせないのが、基本的なルールとエチケットです。しかし、それらは単なる規則ではなく、「思いやり」や「尊重」の精神から生まれる大切な哲学でもあります。本日は、介護現場のルールとエチケットを哲学的な視点で考えてみましょう。
- ルールの意味を問い直す
哲学者イマヌエル・カントは、「道徳法則は個々の自由を守るためにある」と説きました。同様に、介護現場のルールも、利用者さんや職員全員が安全で快適に過ごすための基盤です。
たとえば、「記録は正確に行う」「利用者さんのプライバシーを守る」といった基本的なルールは、その場の安心感を支える柱となります。これらのルールがあることで、利用者さんの尊厳が守られ、私たち職員も効率よく仕事を進めることができるのです。ルールは義務ではなく、調和を生むための「約束」と考えてみましょう。
- エチケットは「尊重」の表現
哲学者マルティン・ブーバーは、「人間の本質は、他者との関係性の中にある」と述べました。介護現場のエチケットは、まさに「他者を尊重する心」を形にしたものです。
たとえば、利用者さんに接する際の丁寧な言葉遣いや、表情、態度は、その方を「大切に思っている」というメッセージを伝えます。同僚に対する挨拶や、適切な情報共有も同じです。それらの行動を通じて、他者との信頼関係が築かれ、「共に働く」という調和が生まれるのです。エチケットは、相手を思いやる心を具体的に表現する「日々の哲学」と言えます。
- プライバシーを守るという倫理
哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「他者の顔にはその人だけの物語が宿る」と語りました。介護現場でのプライバシー配慮は、まさにその人だけの物語を大切に扱う行為です。
たとえば、介助中に体を露出させない注意や、個人情報を第三者に漏らさないといった基本的なルールは、利用者さんの尊厳を守るために欠かせません。これらを徹底することで、利用者さんが「安心して自分を預けられる」と感じられる環境が作られます。プライバシーを守ることは、相手の「存在そのもの」を尊重する哲学的態度なのです。
- 時間を守ることが信頼を生む
哲学者フリードリヒ・ニーチェは、「時間は人生の構成要素だ」と述べました。介護の現場では、時間を守ることが他者との信頼関係を築く鍵となります。
たとえば、利用者さんに対して「○時に食事をお持ちします」と約束した場合、その時間を守ることで「この人は信頼できる」と感じてもらえます。同様に、申し送りの時間やシフトの時間を守ることは、チーム全体の効率を高め、安心感を生む大切な行動です。時間を守ることは、言葉以上に「私はあなたを大切に思っています」というメッセージを伝える手段なのです。
- ルールとエチケットを「自分ごと」にする
哲学者アルベール・カミュは、「他者のための正義は、私たち自身の生活の一部である」と述べました。介護現場のルールやエチケットは、単なる「他人のための規則」ではなく、自分が働きやすく、心地よく過ごすためにも存在しているのです。
たとえば、「利用者さんと同僚の信頼を得ることで、自分も安心して仕事ができる」「ルールに従うことで、ミスやトラブルを未然に防げる」と考えると、ルールやエチケットがより身近なものに感じられるでしょう。ルールとエチケットを「自分のためにも大切なこと」と捉えることで、その実践が自然と習慣になります。
まとめ
介護現場の基本的なルールとエチケットは、安全と調和を保つための「思いやりの哲学」です。それらは義務感から守るものではなく、自分自身と他者のために実践すべき「心の行動指針」として存在しています。
