68.突然の質問は「出会い」の瞬間
2025.06.10 |投稿者:神内秀之介
介護の現場では、利用者さんから突然の質問を受けることがよくあります。「今日は何日?」「あなたはどこから来たの?」「どうして私はここにいるの?」――一見シンプルな質問のように思えても、その裏には感情やニーズ、思いが隠されていることもあります。そんな瞬間にどう対応するかは、利用者さんとの信頼関係を築く上でとても重要です。ここでは、哲学的な視点を取り入れながら、突然の質問にどう向き合うべきかを考えてみましょう。
- 質問は「対話」の扉
哲学者マルティン・ブーバーは、「すべての本当の人生は出会いである」と述べました。利用者さんからの質問もまた、小さな「出会い」の瞬間です。その質問にどう答えるかが、相手との関係を深めるきっかけになるかもしれません。
たとえば、突然「今日は何日?」と問われたとき、ただ日付を伝えるだけでなく、「今日は○月○日ですよ。少し肌寒いですね。最近眠れていますか?」と会話を広げることで、利用者さんが感じている不安や孤独に寄り添えるかもしれません。質問を単なる疑問と捉えるのではなく、「対話の扉」として受け止めましょう。
- 「聞く力」を育てる
哲学者ソクラテスは、「理解するためにはまず耳を傾けよ」と説きました。突然の質問は、利用者さんが伝えたいことを間接的に示している場合があります。そのため、問いの背後にある感情や意図を「聞き取る力」が求められます。
たとえば、「どうして私はここにいるの?」という質問に対して、「ここはあなたが安心して過ごすための場所ですよ」と答えるだけでなく、その背景にある「不安や疑問」にも気づくことが大切です。「何かご不安なことがありますか?」と尋ねることで、利用者さんの本当の気持ちを引き出すチャンスとなります。
- 「正解」を目指しすぎない
哲学者フリードリヒ・ニーチェは、「答えを求めるよりも、問いと向き合うことに意味がある」と語りました。突然の質問に対し、「正しい答えを返さなければ」とプレッシャーを感じる必要はありません。むしろ、利用者さんの気持ちに寄り添うことが最優先です。
たとえば、「私の家はどこ?」と聞かれたとき、現実的な事実を伝えるだけでなく、「ご自宅のことを思い出しているんですね。どんな風景が浮かびますか?」と問い返すことで、心の中にある懐かしい記憶や感情に触れることができます。正確な答え以上に、相手の思いを受け止める姿勢が信頼を育むのです。
- 穏やかな態度で応える
哲学者エピクテトスは、「外の出来事に動揺するのではなく、自分の内面を整えよ」と述べました。突然の質問に動揺してしまうと、つい急いで答えようとしてしまいがちです。しかし、まずは深呼吸をして、自分を落ち着かせることが大切です。
穏やかな表情と柔らかな声で答えることで、利用者さんも安心感を覚えます。たとえ答えがすぐに見つからなくても、焦らず、相手の目を見て「少しお待ちくださいね」と丁寧に応えることで、信頼関係が保たれるでしょう。
- 質問を「成長の機会」と捉える
哲学者ガブリエル・マルセルは、「人間は対話の中で成長する」と考えました。利用者さんからの突然の質問は、介護職員にとっても学びや気づきのチャンスです。「どう答えるべきか」と毎回考えるプロセスを通じて、観察力や対応力が磨かれ、人間としての成長にもつながります。
振り返りを通じて、「あの時、こう答えたけれど、もっと良い言葉があったかもしれない」と考えることで、次回の対応がさらに深まります。
まとめ
利用者さんからの突然の質問は、単なる「問答」ではありません。それは、相手との「新たな出会い」であり、「信頼を深めるチャンス」として捉えるべき瞬間です。問いの裏にある感情や意図に耳を傾け、正解を求めすぎず、穏やかな心で寄り添う姿勢が大切です。
