50.介護マニュアルの「いき」な活用法
2025.05.22 |投稿者:神内秀之介
介護現場では、マニュアルが大切な指針となります。業務の基本的な手順や注意事項が記されており、初めての現場でも迷わず行動できる助けとなるでしょう。しかし、マニュアルをただのルールブックとして受け取るだけでは、その本当の価値を引き出すことは難しいかもしれません。ここで、日本の哲学者九鬼周造が説いた「いき」や「意気地」の概念を取り入れると、介護のマニュアルをより生きたものとして活用できるヒントが見えてきます。
「いき」な使い方――しなやかに、垢抜けた行動を
九鬼周造の「いき」とは、身なりや態度がしなやかで垢抜けていることを指します。介護マニュアルを活用する際にも、この「いき」を意識してみましょう。ただマニュアル通りに作業をこなすのではなく、利用者さんやその場の状況を観察しながら、しなやかに対応することが大切です。たとえば、マニュアルでは同じ手順だったとしても、利用者さん一人ひとりの個性やその日の体調を考慮して柔軟にアプローチを変える――そんな垢抜けた対応こそ、介護現場の「いき」と言えるでしょう。
「意気地」を持ってマニュアルを活用する
「意気地」とは、自尊心を持ち、物事に真剣に向き合う姿勢のことです。マニュアルに書かれた内容をただ受け身で実行するのではなく、「なぜこの手順が必要なのか」「自分がこれを行うことでどう利用者さんに役立つのか」といった意義を自分の中で深く理解しようとする姿勢が重要です。自尊心を持ってマニュアルに真摯に向き合うことで、介護の仕事が単なる作業ではなく、より意味のある行動へと昇華します。
「諦め」を受け入れる柔軟性
九鬼周造の「諦め」とは、ただ単に断念することではなく、現実を受け入れてその中で最善を尽くすことを意味します。マニュアルには万能な答えがすべて記されているわけではありません。現場では予期せぬ状況や、マニュアル通りでは対応できない場面が多々あります。そんな時は「諦め」の精神で、状況を受け入れつつ、自分の経験やチームの知識を活かして柔軟に対応することが求められます。マニュアルを越えた「創意工夫」こそが、介護の現場で輝きを放つ瞬間です。
「偶然性」による発見を楽しむ
九鬼周造は、偶然性が人間の自由を促進すると述べました。介護現場でも、マニュアルを基準にしながらも、偶然の出会いや発見を楽しむ余裕を持つことが大切です。たとえば、利用者さんの何気ない一言や動作が、新たなケアのヒントになることがあるでしょう。偶然の中に潜むチャンスを見逃さず、その場で感じたことを次への学びに繋げることで、マニュアルを超えた実践的な知恵が身についていきます。
身体を通じて学ぶマニュアルの本質
九鬼周造は、人間が物事を認識する上で身体が重要な役割を果たすと主張しました。マニュアルの内容も、ただ「読む」だけではなく、実際に「身体を動かして経験する」ことで初めてその本質が理解できます。例えば、食事介助の手順をただ文字で覚えるのではなく、実際に利用者さんと接しながら身体を使って試行錯誤する中で、そのケアの意味が深まっていくのです。
まとめ
九鬼周造の哲学が教えてくれるのは、マニュアルをただの手順書として捉えるのではなく、「いき」ある垢抜けた態度でしなやかに活用し、「意気地」を持ってその本質を探求することの大切さです。そして、予期せぬ偶然や現実の状況を受け入れながら、実践の中で学び続けることが、介護の現場をより豊かなものにしてくれます。
