❖つまり、共通言語がないのでしょう。
2020.12.04 |投稿者:神内秀之介
前回のブログでは、「使えない」「拒否される」「お金がない」の3つの切り口からA I・I C T導入の阻害要因や普及しない理由について説明しました。今回は、A I・I C T導入の阻害要因や普及しない理由を、「共通言語がない」、「事業規模が小さい」、「I C Tリテラシーが低い」、「現場の業務が、煩雑」、「現場の価値観が人的サービス至上主義」の5つに整理し、さらに深掘りし説明していきたいと思います。まずは、「共通言語がない」です。
介護現場では、在宅でも施設でも医療系・福祉系・介護系と言われる様々な職種が一つのチームとなって一人の高齢者などの支援にあたります。そこで支援する側の各専門職間で様々な情報のやり取りをします。例えば公的介護保険制度で、それぞれの高齢者の要介護認定がなされますが、それは個々の高齢者の真の状態を示すものではありません。保険情報などの事務的な情報はほんの一部に過ぎず、本来共有したい情報はその高齢者一人ひとりの状態の情報です。
医療の分野だと、身体状況を表す情報は世界共通です。さらにその情報の一部は、高齢者本人や家族などの専門職でなくても共有化されています。例えば、脈拍が、上が200を超えている下が100を超えている状態になれば、どの国の医療従事者も異常だと判断し、高血圧という状態の定義やリスクの認識が世界共通であり、さらに基本的な対処方法までもが共通になっています。また高齢者や家族側も、医療職などと同じく異常な状態として情報を共有化できています。
一方介護の現場では、多くの専門職種が活躍し、そこが生活の場であることから高齢者本人やその家族もチームメンバーの一員となっています。故に共通言語、状態の共有化が必要となりますが、実際はなかなかできていません。介護の現場では怏々にして複数の言語が専門性の名の下に闊歩しており、その専門性の美名の元に専門用語の情報量の多さに安堵し、他の言語への言い換えることや翻訳することができていません。自分たちのポジションを確保するために専門用語で武装している感じさえします。
実際、利用者や入居者等の状態を把握するためのアセスメントにおいても、例えば、医師はI C D−10で疾患名を語り、看護師はN A N D A―Internationalで状態像を語り、セラピストはF I Mで身体能力を語り、介護支援専門員はI C Fで生活状況を語るなど、その専門領域の中では状態の共有化ができていても、この専門性がかえって他職種との情報の共有化という視点では阻害要因となっています。
A I・I C Tの活用以前に一人ひとりの高齢者を見る目・語る口・聞く耳がバラバラで同じ対象者を前にして、まるで違う人をそれぞれ支援している状況に陥っていることがあります。これではI C T導入ニーズも活用方法もバラバラになってしまいます。しかし、逆転の発想からするとこの問題を解決するために、A I・I C Tを通訳あるいは翻訳機能としての活用することも検討の一つとなり得ます。正直、今後も各々の専門性が問われれば問われるほど、共通言語がなくなるかも知れません。あえてそこを求めるのではなく、AI・ICTを共通のプラットフォームとして連携する方が、容易いのかも知れません。